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オリジナル創作の小ネタ置き場
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エンシロ

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 元々、身体のバネもよくダンスをやる際の基礎は整っていた。
 まさか自分がきらびやかなセットと何台ものカメラの前で、双子の弟である男と踊るとは思っていなかったが。
 声量も申し分ない、と事務所に太鼓判を押された。
 やっぱりラジオやショップで、自分たちの歌が流れることだって考えてもいなかったが。
 もちろんこれだけでは歌手としては成り立たない、デビュー以降も押し上げてくれた人々や時の運やらに恵まれ漸く軌道に乗ってきたこの世界――しかしどうにも手の届かない部分がムズ痒くて、エンは鏡の中で苦虫を噛み潰したような自分の顔と睨み合う。
 ここはこの後行われる音楽番組での出演者に割り当てられた楽屋。あまり広くは無い簡素な部屋にエンだけが座っている。

 『ROW』として芸能活動を初めて早3年。最初は上手くいかないことだらけで挫折や衝突だってあったが、地道に積み重ねてきた経験と実績、喜ばしいことにファンの応援あってここまでこれた。本業はアイドルなのだが、双子アイドルとしてバラエティー番組に呼ばれることもありテレビ出演の機会も増え、少しずつだが知名度も上がったことも今の『ROW』を築き上げた要素だった。
 まだまだ、もっともっと上へ行く。
 これは二人の夢であり、この世界で生き続けるための目標であった。

 今日出演する番組は歌の世界では長寿番組である。今までも何度か出演させてもらったが、やはりこの独特の緊張だけはいつまで経っても慣れない。
 はぁ、と重たい溜め息を吐いて机に突っ伏したエンは腹を擦る。相棒である弟のコウが戻ってくる前にこの情けない胃よ、早く落ち着け。

 アイツは図太いよなぁ。

 今は居ない弟へ向けて兄の口から細く吐かれた。コウはスタイリストが楽屋を訪れる時間になるまで適当に局内散策へ勝手に行ってしまったのだ。
 この狭い楽屋内、二人でいると息苦しくなりそうだが一人だと、正直辛い。緊張に押し潰されそうになる自分のヘタレ具合に項垂れながらも逃げ出せないこの状況から少しでも逃避したくてずるずると腕が鞄へ伸びる。手探りで鞄の中を漁り取り出した携帯を開けば、1通の未読メールをトップ画面が通知していた。
 誰だろう、と手慣れた様子で受信フォルダを開けば。
「あ」
 その送り主と分かった時の気持ちと、内容に目を通した時の気持ち。
 思わずエンから漏れた笑みが楽屋の壁に配置された鏡に映る。その横顔は、テレビに映る笑顔とは質が異なる穏やかさだった。









 生番組本番直前の人にメールを送るべきか、リビングでシロは携帯を両手に握り締めながらうんうんと唸り続けていた。
 忙しいかな、集中が切れちゃうかな、嫌な気分にさせちゃうかな、ぐるぐると目を回しながら悩む。
 彼女も彼ら『ROW』と同じ世界に立つアイドルだ。
 同じ歌手として、そして双子という共通点が自然とお互いの距離を近付けこうしてオフでもちょこちょことメールを送りあったりしている。お互いの立場上、まだ一緒に出掛けたことはないが。
 テレビで活躍する姿に憧れもあった、でもそれとはまた違う感情も彼に抱き始めている自分がいた。

 どうしよう、どうしよう。

 メール作成画面までは開けた。文面を書いては消して書いては消してを繰り返した。なんとか完成したメールを後は送信ボタンを押すだけ。なのだが。
 ただ、「頑張って」「応援してる」と伝えたい。至極シンプルな気持ちなのに、わたわたと指だけがボタンの上をさ迷う。
 溜め息がまた1つ。

 そして、それは一瞬のこと。
「あっ」
 突然後ろからにゅっと伸びてきた白い手がシロの携帯を拐い、有無を言わさず送信ボタンを押してしまった。
 こんなことをするのは一人しかいない。ぽかんと停止するシロに抱き着く形で彼女の肩に顎を乗せて笑っているのは妹のクロ。
「ばばーっと送っちゃえばいいのに」
 にんまりと口端をつり上げるクロの手から携帯を戻されるのを、ブリキの玩具のように鈍い動きで受けとるが──手の中の携帯画面に表示されている『送信成功』の文字にじわじわと顔が熱くなった。やられた!
「クロ…!」
「私たちが本番前の時だって、コウたち一言くれたじゃーん」
「そ、そうだけど!」
 ケタケタ笑いながら、ソファーベッドにダイブする妹は自分の携帯をカチカチと操作していて「そーしん!」と自分もメールを送ったようだ。相手は、多分、恐らく、いや絶対に彼だろう。
 悪気なんて欠片も無い様子の妹に、声にならない呻きしか出てこなかった。眉を情けなく寄せたシロは大きく深呼吸。
 送られてしまったものは仕方ないと気持ちを切り替える。
 次はこの携帯が鳴るのを、先程よりも数倍も大きい緊張で待つのだから。





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