オリジナル創作の小ネタ置き場
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獣パロ
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陽の傾きも緩やかになったこの季節、独特の気だるさに大きな欠伸をしたクロはペンを机に転がす。コロコロと自習用ノートの上を転がったペンが古典の教科書へぶつかると、深い溜め息が出てしまう。
小学校の半ばまで海外を転々とした時乃姉妹にとって、家族間ではやり取りした母国語ではあるが情報として耳に入ってくる機会が多かったのは圧倒的に海外の言葉であった。馴染み深さのある英語の方がまだ学校での授業に付いていけてたが、この古典とやらが頭を悩ます種。意味分かんない。
集中力の切れたクロが姉の姿を横目に見れば、シロは黙々と書き取りを進めていた。
シロは日頃から地道にヤマを切り崩していく堅実なスタイル、対してクロは一夜漬けに賭けて後に知識の残らない典型的な崖っぷちスタイルである。それでもわりと山勘が鋭かったクロは今までの修羅場を乗り切ってきてはいたが、いつまでもそんなことではいけないよと姉に注意されたので肩を並べて仲良く予習復習の時間を設けていたのだが──
「飽きた」
頬を膨らませて机からエスケープ。
クロ、と姉が呼ぶ声がしたがひょいひょいとステップを踏む彼女にはもう無駄なこと。まぁ、三十分は教科書に向かえてたので徐々に習慣を付けるようにするしかないかと諦めたシロはまたノートへ意識を戻した。
鼻歌混じりに広い庭を見渡せるお気に入りの自室の窓から顔を覗かせたクロは夕焼けに染まった空に流れる雲を無意味に眺め、この部屋より低い位置にある隣家の屋根、街路樹、庭に咲く花、順々に視線を落とし…そして家を取り囲むように設置されている洋柵の向こうに"その影"を見付けた。
「シロ、あのワンちゃんがまた居るよ」
野良犬と少女
こんにちは。
俺はエンです。
野良やってます。
物心付いた時には公園や路地裏のゴミ箱を漁る生活をしていた俺と兄弟であるコウは、この地域を根城にする野良犬です。
親が何の犬種だったのかは分からないがこの体格は大型よりの中型犬で、無造作に生えた体毛のもっさり具合で更に見た目を大きく見せた。
こんなのがふらふら歩き回っていたら即保健所通報される訳なんですが、まぁそこは長年の知恵。人間たちの追跡を掻い潜り悠々と暮らしてます。
野良ネットワークと言いますか、そう言った情報網も確固たるもので生活するのも困らない優雅な野良生活。
着たくもない服を無理矢理着せられて玩具となっている小型犬や、狭い庭に小屋と短い鎖で繋がれた大型犬を見ると「嗚呼、可哀想にと」思うことばかり。自由の無い彼等を哀れむしかない。でもまぁあっちはあっちで俺達を「汚ならしい格好で寝る家も食べ物を与えてくれる人も居ないだなんて可哀想に」とか思ってるんだろうな。
さて。小腹が空いたので、俺達の食事の時間だ。
「エン、今日はどこ行く?」
「うーん。4丁目の弁当屋は?」
「時間的に売れ残りを廃棄してっか」
「勿体ないことするよなぁ。普通に食べられるのに」
コウは俺の兄弟。
毎日腹が減ったら食料調達のためにターゲットを決めて二匹で向かう。コウが見張りなり何なりしてる間に俺がごみ袋を物色したり逆もあったり。この地域の食べ物事情を把握していると、時間帯や日にちによって狙い目が変わる。今日の弁当屋も商店街にあるこじんまりとした個人店だが、味はピカイチだ。
「夜中に動いた方が人も少ないから楽だよな」
人通りの多い商店街となるとそれなりに危険もあった。
見付かれば大声で叫ばれて箒片手に追い払われるし、水掛けられるし。
こっちはあんたらを捕って食おうとか思って無いし、危害を加える気は無いんだけどと思っていても伝わらないのが人間と動物だ。
所詮は違う生き物なんだから。
そんな生活を続けていたある日のこと。
「げ」
いつものように路地裏にまとめられたごみ袋を物色している途中だった。
コウから漏れた変な声に耳を傾けると天を仰いでいる。何か居るのかと釣られて鼻を上げたら、ぽつん、冷たい何かが当たった。──雨だ。
「参ったなぁ」
暗雲が覆う空と重い湿気、これは派手に来そうだ。
のんびりしている暇は無さそうだったので、コウと共にそれぞれ適当に袋を咥えて人目に触れないよう俺達は走り抜ける。
廃ビルは雨風凌ぐ場所にもってこいだったが、ここから少し離れていて間に合いそうにない。どうしたもんかと走っている間にとうとう本降りになった雨に体を打たれ、目に飛び込んできた河川を渡る橋の下に逃げ込んだ。
この川越えたらいつもの公園なのにな。
「っあー!ちきしょう!!」
ぶるぶると体を振るわせて水滴を払うコウ。いつもは天を向く逆毛も情けなく垂れ下がっていた。
悪態を吐く兄弟を宥めながら天気ばかりはどうにも出来ないので、空が機嫌を直すのを待つしかない。
「凄い雨」
「やってらんねー」
「弱くなったら一気に公園まで戻ろっか」
「おう。それまで飯食うかな。あ、唐揚げ」
「マジで?」
濡れはしたが持ってきたごみ袋は当たりだったようだ。橋や川を叩く雨音は激しかったが、空腹を満たすことの方が重要である。
ホント人間は贅沢だなぁ、食べられるものをこんなに捨てて。でもそれを食べてる俺達野良も居るわけで、絶妙なバランスなんだろうか。
あれからどれだけ時間が経ったが分からないけど食事も終わり体温の低下を防ぐために隅で丸まっていた。コウも体力消耗を抑えて大人しくしている。まだ雨は弱まらない。
いつまでもここに居るわけにもいかないし、気のせいであってもらいたいが川の水位上がってね?あ、気のせいじゃない、確実に上がってるよ。雨に打たれるのは嫌だが、流されるのはもっと嫌だよね。
コウに声を掛けようと横を向いた時だ。
「ワンちゃんだ」
びっくりした。
傘を片手に一人の女の子が立っていた。
こんな雨で橋の下の河川敷にわざわざ何の用だろうと思っていたら、「ホントだ」と同じ顔をした女の子が更に顔を覗かせてまたびっくりした。制服を着ているから学生だろうし、学生が帰宅する時間になっていたのか。
「わっもう一匹居た」
「こんな雨なのに、こんなとこ居たら風邪引いちゃうよ」
白い女の子と黒い女の子──俺達犬の目じゃ色の判断がつかないからこう言うしかないんだけど──は傘を閉じて橋の下に入ってくる。
人間が嫌いなコウは直ぐに距離を取ると威嚇体制になるが、黒い女の子はきょとんとしていた。鈍いのか図太いのか…
白い女の子は鞄を漁ると、中からタオルを取り出して微笑んだ。
「体、冷えちゃうから」
わりと体格のある野良犬相手にも物怖じせず、でも無理矢理手を伸ばして来ない彼女はしゃがみこんだままタオルを片手にこちらを見ている。
様子を伺っているのだろうか?
すんと鼻を鳴らしてみたら、にっこり笑った彼女のタオルが俺の頭に掛けられて直ぐにゴシゴシと頭を擦られた。雨に濡れた俺の体を拭いてくれているのだと気付いて、頭から耳の後ろや首、背中へと降りていく。見知らぬ人間に好きに体を触らせているのに嫌な気がしないのは、柔らかなタオルの感触のせいなのか、彼女の不思議な雰囲気のせいなのか。
「今日は突然雨降ったものね」
俺の体を拭い終えた頃には長い野良生活で蓄えた諸々の汚れをタオルが受け止め、こんな少女が持つには可哀想なくらいに汚れきってしまっていた。
あのコウも、黒い少女に体を拭かれたようで水分を飛ばした体毛がもっさりといつもより増しているようだ。「さっぱりしたー?」と話しかけてくる彼女に顔を背けながら、揺れる尻尾は隠せていない。
「シロ、この子黒かと思ったけどよく見たら赤毛だよ」
「この子は深い緑色…珍しいね、何の犬種なんだろ」
「多分兄弟だろうけど。…親はなんだろねー」
ごめん、それは俺達もよく知らないんだ。伝えたくてもその術は無い。
ありがとうだって伝えられない。
不思議な双子の少女との出会いは、こんな雨が酷い午後のことだった。
もう一度だけ会いたいと思い、忘れられなかったあの柔らかい匂いを元に辿り着いた彼女たちの家は──とてもじゃないが近付けるレベルじゃなかった。
なんですかこの超豪邸。
柵の向こうに広がる光景に俺達はただただその場に座り込むことしか出来ず、これが、野良と人間の分かりやすい境界なんだと実感したのであった。
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獣パロでした。
野良双子犬のエンコウとお金持ちの娘シロクロの話。
野良双子犬と室内飼いの双子猫ってのでも良かったんですが、今回は犬と人間で←
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