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オリジナル創作の小ネタ置き場
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【LW】
「夢ノ国へ」の続き。
異界へ取り込まれ、その中で逸れてしまったエンとコウ。

Side:K




_



 終着点はどこなのか。
 いや、この落下に終わりはあるのか。――随分と長いこと落ちているが、一向に変化は訪れない。
 天地がどこかもよく分からない真白な空間を落ちながら、カリスは黙考していた。
 音も無く、深く、深くへと沈んでいるようだと目蓋を閉じる。
 小さな鼓動のようにゆらめいた、仄かな光を宿す欠片を思い描いて。
『……マスター、巨大な空間反応を感知しました』
「みたいだな。物凄く分かりやすい」
『不安定ってレベルじゃないですよ、これ。何というべきか……はしゃいでる、ような?』
「そうか……僕には、怯えているように感じたが」

 波立つ。





---泡沫_01---





「マジかよ」

 視界の果てまで覆い尽くす白を前に、コウは一人立ち尽くしていた。
 突然謎の空間移動に巻き込まれ知らない世界に放り出され―しかも魔物に襲われて―情報集めのため人里目指して移動中だったのに、その途中で何か声らしきものを聴いたと思ったら、そこからぷっつりと記憶がない。気付けばこのだだっ広く何もない空間が続く場所に一人立っていて、思わず漏れてしまった声に返す相手はいなかった。
 兄のエンと逸れてしまった。
 確かにそれもかなり問題なのだが、それよりも、この世界は。この場所は。
「おいっ! 居るのか!?」
 声を張り上げて辺りを見回す。
「オレだよ! コウだ!」
 どこまでも白い静寂の空間にコウの焦燥感が増した。
 ワケ分かんねぇぞ、おい。と、一人ごちて髪をかき乱す。難しく考えることも、ぐるぐると思考の海に飲まれるのも、コウは全部嫌いだ。此処はどこだ、あそこなのか、それなら居るんじゃないのか、居ないのか。ああ、どうなんだ。一気に廻る思考が判断力を鈍らせる。
 淀んだ滓を払拭するように力の限り叫んだ。獣の雄叫びのような、慟哭のような、乾いた声で。
 ドクンドクンと煩い心臓が、ゆっくりと静かになっていく。
 静に包まれたままの空間にただ独り、短く吐いた呼吸だけが聞こえる。
 天を仰いでも、ずっとずっと、果てまで白い。

「――……“クロ”」

 口端から零れ落ちた小さな音が、白にとけていく。





 それから、コウは一人当てもなく白の世界を歩いていた。
 歩くと時折背の槍から発せられる冷たい音だけが、コウの存在をこの世界に示しているようだった。
 まずはエンと合流しなければ。
 頭の悪いコウでもこの考えには辿り着けた。
 この白い世界が、自分たちが望む場所なのか確証はない。諸々を含めてエンの意見がコウには必要だった。この白い空間にエンが居ないかもしれないかどうかということは考えていなかったが、たぶん、まぁ、居るだろう。コウは難しく考えることが嫌いだ。
 時折、兄の名前を呼びながら歩く。ついでに悪口も言ってみる。勿論返事は返ってはこない。
「はー……」
 視界を満たす白に吐き出される息が重くなるのは仕方がないことだろう。コウにとって、あまり気分の良いとはいえない記憶ばかり思い出されるからだ。
 立ち止まり、己の掌を見つめる。
 目の前をすり抜けていった彼女の手を掴めなかったことが記憶に焼き付いて剥がれない。
「……ぜってー諦めねーぞ」
 今度こそ、その手を掴んで引き寄せる。二度と放すものか。
 旅を続ける理由を強く拳を握って誓う。――その瞬間。
「あ?」
 背の槍から、いや、槍に施された魔石から強い色彩が放たれた。
 白だけの世界にコウを中心として青い光が囲む。槍を手に取り魔石を注視すると、その光はまるで意思を持っているかのように彼より少し離れた地面のある一点を指し示した。
 明らかな変化に思わず口角が持ち上がる。
「こいつが反応するってこたぁ……」
 呟きながら腰を深く落とし槍を構える。
 長い間変わらぬ景色の中に居ていい加減鬱憤が溜まっていたところだ。獲物を見つけた時のように笑ったコウがより一層強く地面を蹴り高く垂直に飛び上がると――
「なんかあるってことだろ!」
 迷うことなくその身諸とも光の点へ槍を叩き込んだ。
 鋭い一閃が地面を貫けば確かな手応え。
 ピシッと高い音が空間に響き、槍の先を中心に、蜘蛛の巣状にヒビが拡がっていく。ポロポロと空間の欠片が削れていく様を見て、槍を強く握り直すと更に穴へコウは突き進む。
 そして一気に槍が狭間に捩じ込まれていったのを見計らい、今度は力任せに上方へ斬り上げた。無理矢理裂かれた空間は硝子を粉々に叩き割ったような鋭い音と共に、明度を落とした。
 一瞬で周囲を覆い隠す闇。
「……今度は真っ暗闇か?」
 と思ったが、自分の姿は見える。どうやら唯単に真っ暗とは別の空間のようだ。
 いつ襲われても対処出来るよう、攻撃体制は保ったまま神経を研ぎ澄ませて辺りの様子を伺う。
 すると、
「あのー……すみませーん……?」
「誰だ!?」
 後方から、聞こえたのは女の声。
 コウは振り向き様に槍を構えると目を凝らし――超ビビった。全く気配に気付かなかったぞオイコラ――闇の向こうにぽつねんと立つ少女と男を見付けた。少し距離はあるが、闇の中でも相手の存在もしっかりと認識出来る。
 栗色の髪の少女と、その少女を庇うように立つ銀髪の男。何故か知らないが男の方は殺気立ってる。
「あ、その、こんにちは。えーっと……ねぇ、里玖。あの人知り合い?」
「記憶にない」
「私も……。じゃああの人は私たちの記憶から作られた人じゃない、のかな?」
 呑気な挨拶のあとに二人の間で交わされる会話は小声ではあったが、人狼のコウにとっては難なく拾える範囲だった。

 “記憶”? “作られた”?

「なんの話してんだ。つーかテメーら誰だよ」
 コウは警戒心を顕に威嚇する。
 腰にかけた剣の柄に手をかけてこちらを睨み返している男には全く隙が無い。まともにやりあったら面倒そうだと第一に感じた。
「里玖、待って。私あの人に話を聞きたいの」
 睨み合いが続く男二人に挟まれた少女はおろおろとしながら男をなだめる。
「私たちの記憶に関すること以外のことが起きたんだよ、もしかしたらこの異界の異変に繋がることかもしれない!」
 聞き慣れぬ単語にコウが眉を顰めると槍を降ろした。
「……異界? なんだそりゃあ」
「ここが何処かわからないのか」
「知るかよ。気付いたらここに居たんだからよ」
 投げやりに吐き捨てるコウに、少女が困った様子で隣の男を見上げている。静かな瞳でこちらから視線を外さない男も抜刀の構えは解いてはいるが、もしこちらが動けばすぐにでも斬りかかってくるであろう警戒はしたまま。何やら事情がありそうな二人。しかしこちらに敵対する意思は無さそうだ。
 この場所についてなにも情報の無いコウにとってこの機会は逃してはならないという考えにいきついて、二人に向かっていけしゃあしゃあと告げる。
「おい。テメーらが知ってること、全部教えろ」
 今この場に兄のエンがいたとしたら、コウの厚顔無恥な態度に頭を抱えていることだろう。




---続---

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