忍者ブログ
オリジナル創作の小ネタ置き場
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

双子と番人




 私は夢を見るように、過去の記憶に触れることがある。
 最初は夢なのか過去なのか、はっきりしない時もあったけど…その差は、明らかだった。
 それが何処だったか憶えていないけど、時折記憶の欠片が見せる景色はいつも色が欠けていたから。ただただ、色のない世界が広がって、音もない。狭いステージみたいに、少し歩いたらその先は何もないシロの世界に飲まれている。
 たったこれだけの私の世界は、いつもここまでだ。
 クロが居てくれたら夢の世界でも頑張れるのに、しゃがみこみ項垂れても影の1つも出来やしない。

 その時ふわり、と頭を撫でられた柔らかな感覚が私を擽る。

 すごくあたたかくて
 すごくなつかしくて

 いつも一人だった私と一緒に居てくれた人、誰だったっけ──






 微睡む意識がゆっくり覚醒へ向かう。
 靄掛かった視界のまま、先ず確認したのはクロの存在だった。
「クロ、クロ」
 自分の下、そこに向かって呼び掛ける。
 私たちは砂時計の中にいるから、触れ合えない。でも声は届くの。
「…まだ寝てるのかな」
 硝子の向こう側で動かない黒髪の子、《クロ》はよく寝る。起きてたらいっつも賑やかだから、眠るときはスイッチが切れたみたいで寂しいし、怖い。
 この中に入れられてどれだけ時間が経ったのか忘れた、でも私はクロと一緒に居られるから苦じゃなかった。クロは暇だ暇だと暴れてたけどね。
 それに…
「エルさん、おはよう」
 私が目を覚ますと、いつもあの人はそこに立っていた。
 砂時計の側で、いつも微笑んでくれるきれいな人。今日は一人。
「…カイさん居ないんだね」
「誘ってるんだけどねぇ…照れ屋さんだから」
 そう言うとエルさんは眉尻を下げて笑っていた。
 硝子が隔てている世界だけど、会話に支障は無いのが不思議。でも手を這わすと物理的に遮断された硝子が冷たい。だから、いつからかお互いに硝子に手を這わすのはしなくなった。
 目が覚めたら他愛ない会話を交わし、たまにエルさんの歌声を聞きながら私たちはまた眠りにつく。
 それが今の私の世界。
「それにアレあんまり話さないから間が持たなくて辛くなるよ」
「そうかなぁ、いつもエルさんとクロが沢山話してくれるから気にしてなかったかも」
「ふふ、だったら後で引き摺ってくるよ。……まだクロは寝てるんだね」
「うん」
 一度しゃがみこんだエルさんがクロの様子を見てる。
 髪に隠れて表情は見えなかったけど、少しだけエルさんの唇が歪んだようで不安になった。パッと顔を上げたエルさんはいつも通りだったけど、私の揺らぎが伝わったのか「大丈夫だよ」と笑顔で言ってくれる。
 随分前からこの笑顔を見ると、安心出来て自然と落ち着いてしまうんだ。
 …私の過去に、エルさんみたいな優しい人が居たのかな。
「じゃあ、僕はあの無愛想眼鏡を連れてこようかな」
「うん、待ってる」
 エルさんに手を振る。
 起きたばかりなのに少し眠くなってきて、起きてなきゃと目を擦った。
「クロが目を覚ます頃にまた来るね」
「わかった。…あ、ねぇエルさん」
「ん?」
「いつも会いに来てくれてありがとう」
 そう言ったら、エルさんは綺麗な瞳を細めて笑ってくれる。
 でもとても悲しそうな顔で笑うから、何故か私が泣きたくなった。










 ごぽり、と泡が蠢く。
 壁一面の巨大な水槽に背を預ける影は一人の男。
 静寂の間に戻ってきたエルは、靴音を響かせてその男の横に立つ。呼吸さえ拾えないくらいに静まりかえっていた。
 カイは腕を組んだまま、エルは水槽の奥を見つめながら、互いに交わらない視線。
「──…様子は?」
「…二人とも、進行が止まらない」
 死人のように顔色を失ったエルの顔を揺らめく光が照らす。
 そっと自身の白い指を水槽に這わせてそれが情けなく震えているのに気付き、隠すように思い切り手を握り締めるエルの姿にカイは眉を歪めた。

──時間が無い。

「以前目が覚めたのは…35日前だな」
 その前までは24日程度の周期だった。
 保護した時から既に眠る時間が長くなりだしていて、あの砂時計に入れても解決はしなかった。
 ただ少しだけ進行が遅くなっただけで。
「あの子たちは自分たちが普段通りに過ごせていると思ってる。自分の異変に気付いてない…このままじゃ」
 双子の時が止まる──掠れた声で呟いた。
 救う道はただひとつ。もう一組の双子、彼らにしか時の双子を救えない。

「……僕たちは──無力だね」

 祈るべき神などとっくの昔に見限ったが、胸の前で手を握り締めるエルの姿は皮肉にも神への祈りの姿に酷似していた。




 そして、二人が双子の元へ戻った時。
 穏やかに眠りにつく白と黒の双子と時を刻ざむ砂時計。







 ───そして、これ以降 双子が目を覚ますことはなかった。






---

拍手

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
[31]  [30]  [29]  [28]  [27]  [26]  [25]  [24]  [23]  [22]  [21
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア
最新コメント
プロフィール
HN:
おいも
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
最古記事
P R
Admin / Write
忍者ブログ [PR]