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オリジナル創作の小ネタ置き場
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 魔学新校舎でのスタートとも言える講堂での式典は、四年生全ての科を集めて始まり滞りなく終わった。
 全生徒を収容出来るだけの広大な講堂の威圧感に飲まれたか、式典から解放されたからか、四年生から吐き出される息はどれも重さを伴ったものばかり。
「はー…緊張したなぁ」
 生徒たちの波から出てきたエンも脱力しきった様子であったが、その後ろを着いてきていた弟のコウからは大きな欠伸が出ていた。
「俺は眠かった」
「…お前ってホント図太いよな」
「そりゃー俺だからな」
 どこから来るのか分からない自信たっぷりな弟にエンは溜め息で返して歩き出す。
 今日の四年生の予定はこの式典のみで、残りの時間は門限まで自由時間となっている。大体の生徒は魔学内を見学しに歩き回るのだが、立ち入り禁止エリア等この敷地をまだ把握していないのも実情だ。その対策なのか案内役や見張りであろう腕章を付けた上級生があちこち居るのにエンに少しだけ緊張が戻ってきていた。
 この学年になって、新しい部屋を与えられた。そして今身に纏っている騎士科の黒い制服も、今日下ろし立ての物だ。全体のデザインは低学年時と変わりは無いのだが、一つだけ追加された要素――左胸部分に付けられた騎士科の証・エンブレムが光を反射して輝いている。これはこの校舎に来てから支給されるもので、エンブレムがあるだけで気持ちの引き締まり方も随分と違う。これとは別に騎士科正装である甲冑もあるのだが、今はまだ出番は無い。
 これから一年に一度、年度末に己の力を試すランク試験が行われる。これの結果によって、周囲からの評価が明確になるのだ。騎士科として目指すは最高ランクのプラチナ星の階級章。騎士科の中でも一・二割程度しかなれないと言われてるだけあり、その道は険しいだろう。だが、目標は高くあれ!が口癖の豪胆な父親の影響か、ロウ兄弟はヤル気だけは満々だ。
 すれ違う上級生の胸元で輝く階級章に、早く自分の胸にも輝かせたいと逸る気持ちを抑えつつ長い廊下を抜けエントランスまで来たエンは振り返った。
「コウはこの後どうする?」
「そうだなー…鍛練場行くかな。どんなんか気になるし」
「あ、俺も行きたいな」
「えーお前と行動すると目立つんだよ」
「今更だろ、そんなこと」
 恐らくここでの生活で一番利用するであろう鍛練場。騎士科として、魔学の数ある施設の中で一番興味のある場所だ。
 初期の段階では皆剣術を学ぶが、三年生からは各々武器の選択が可能になる。
 バランス重視の剣、力で圧倒する槍や斧、速さを生かす短剣、己の拳、武器と言っても幅広い定義だ。四年生からはこの広い敷地内に数ヶ所設けられた鍛練場で自分に合った鍛練を積むことが出来るようになる。
 同じ武器を扱う者、異なる武器を扱う者、それぞれの戦い方を身を持って学ぶ。
 エンは一番手に馴染んだ剣の道を、コウは棍術を折り込んだ槍の道を極める選択をした。ランク1の四年生たちは魔学から支給されている指定武器を扱っているが、ランクによって自分が選んだ武器を扱えるようになる。
 自分の手に自分の武器を持つ日もまた、魔学の生徒たちの夢なのだ。
「鍛練場、上級生が居るだろうから邪魔だけはしないようにな」
「はいはい」















「失礼します、魔法科四年生シロ・トキノです」
「魔法科四年生クロ・トキノです!…これで大丈夫だよね?」
「たぶん…」
 トキノ姉妹は魔学西棟の階段踊り場で座り込んでいた。
 昨夜出会った女性に言われた通りに式が終わった後に教務課へ行き、事務員に用件を伝えようとしたら既に話が通っていたようで「西棟08-11号室の使用許可が出ています。そちらへ向かってください」と訳もわからず向かわされた。
 魔学の造りは複雑であるが、建物を大きく簡単に分けると中央棟・西棟・東棟といった三つの建物から構成されている。中央棟から北のエリアは学生寮、南のエリアは講堂や資料館。屋外には鍛練場、騎士科厩舎など。そして全体をぐるりと囲むように生い茂る深い森がありそこには魔法科の生徒たちの練習場になるエリアが設けられている。
 今回トキノ姉妹がやってきた西棟は主に魔法科の授業で使われる教室が密集している場所であった。
「私がノックするから、シロが最初に失礼しますって言ってね」
「う、うん」
 思わず声を潜めて会話をしてしまう二人の顔に余裕はない。
 自分たちの特殊属性に関する話題だと思うと、使いこなすどころか理解さえもしきれていない力に対して不安要素ばかりが先行してしまう。あの女性からは聞いてはいなかったが、もしかしたら突然実力試験のような展開になってしまうかもしれない!だとかぽんぽんと浮かんでしまう。
 八階の11号室、なんとかその前までやってきたがあと一歩が踏み出せずに俯いた。
 触れたお互いの手を取り合って呼吸を整える。
 大丈夫、大丈夫。
 意を決して、クロの右手が上げるとシロの手に力が込められた。そしてその扉を――

「あ、入っていーよー」

 叩こうとしたところで中から聞こえてきた声にクロの手は中途半端なところで制止する。もしかしなくとも、今扉の向こうから入室許可を先に出されたのか。
 ぱちぱちと瞬きしてから、一度シロを見ると彼女も同じ顔でクロを見ている。
 え。気付いてたの?
 今の私たちに言ったの?
 二人して固まってしまう。
「どーぞー?」
「あ、はい!」
「失礼します!」
 反応が無いと思ったのか再度中から声が掛けられ慌ててシロが扉を開けると、そこには二人の男の姿があった。
 一人は部屋の机の上に腰掛けている金髪の魔法科の男、もう一人は腕を組んで立っている銀髪の騎士科の男。銀髪の男は入り口に佇むトキノ姉妹を見て、一度金髪の男に視線を送る。
「それじゃあ俺は鍛練場に戻るぞ」
「はいはーい。監督頑張ってねー。キミたちはこっちに来て」
 軽い口調で手をひらひらと手を振っていた男は、その動きのままトキノ姉妹に手招きする。シロとクロが緊張した面持ちで部屋に入ってきたのを見届けて銀髪の男が退室していった。
 誰だったんだろう――シロは閉まった扉を見詰めるが、今大切なことはこの部屋に呼ばれた理由だと気を引き締めて向き直る。
「えっと、えー…四年の、あ、今年から魔法科の、四年生に…」
 先程練習した自己紹介を言うつもりが言葉が上手く出てこない。
 にっこり、金髪の男が笑う。
「はい、息吸ってー」
「え」
「息吸って~」
「すぅー」
「吐いて~」
「はぁー」
「吸って~」
「すぅー」
「吐いて…」
「はぁー」
「うん、もう一度最初からどうぞ」
「魔法科四年生シロ・トキノです」
「同じく魔法科四年生クロ・トキノです」
「良くできました」
 組んでいた足を解き机から降りた男は制服の上着を正す。その胸元で魔法科のブローチが不思議な色に煌めいていた。
 思わず見とれてしまうその輝きにトキノ姉妹の視線が揃ってブローチに注がれていることに気付いた男は柔らかい声で告げる。


「こんにちは、トキノ姉妹。僕はエル、魔法科六年。キミたちの特別監督に選ばれたんだ」


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