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オリジナル創作の小ネタ置き場
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エル・カイ・ミコたちが暮らすアパートでの出来事。





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 カレンダーは最後の一枚となり吹きすさぶ風も一層厳しさを深めた冬の朝。
 6畳間の一室で携帯のアラームが告げる朝にのろのろと腕がさ迷う。敷布団から落ちた携帯を探し出してアラームを止めると、まるで亀の頭が動くように布団の中から金の髪が出てくる。
 目が覚めても空気の冷たさと布団の温さの差にそこから這い出ることが先ず第一の難関であり、気を緩めば再度夢の世界へご招待され兼ねない。
「…、…」
 しかし、こんなところで挫けてはならぬと気合入魂で布団をはね除けたエルは「さぁ今日も頑張りますか」と頬を張る。
 いつもと同じように横のベッドに出来たこんもりとした塊を確認して(諸事情により預かっているこの子供は体を丸めるように縮こまって眠ることが多いようだ)、朝の支度を始めるため少しだけ癖のついた髪を手櫛で正しながら洗面所へと向かった。
 朝第一の仕事として洗濯機を回しておいて歯を磨いて顔を洗って鏡に映る自分の姿をチェック。──よし、僕ったら今日もカッコいい。
 …なんてふざけてみても突っ込んでくる相手がいないので、空回りが虚しい。 それは置いておき、ミコが眠る部屋を扉1つで仕切っているリビングへやってきたエルが次にやるのは炬燵とポットのスイッチオン。
 それらを温めている間に、キッチンテーブルに置かれた食パンの処理をしようかとメニューを考える。
「フレンチトーストにしよっかなー」
 今ある食材で作れるし、簡単だし、作り置きしたコーンスープのタネもあるし。
 即決だったがそうと決まれば準備を始める。朝は1分1秒でも無駄に出来ない。因みにエルの起床は6時、それが毎日のスタートなのだ。
 そして朝食の準備を始めてから十五分後。
 6時半にセットされた目覚まし時計が、仲良く2つの方向から鳴り響くのをいつも台所に立ちながら聞く。片方は直ぐに聞こえなくなる、でももう片方はまだ鳴っているのもいつものことだ。
 香ばしく仕上がったフレンチトーストをテーブルに並べ、更にレタスやきゅうり・プチトマトなど朝食に欠かさないサラダを手早く作って皿に盛付けたところで扉がそろそろと開かれた。
「おはよー…」
「おはよう、ミコ」
「かおー…あらうー」
 この家でエルの次に起きてくるのはミコ。
 まだ若干寝ぼけているのだろう少女がふらふらと洗面所へ行くのを見送る。気付けばもう片方の目覚まし時計は止んでいた。
「ま。起きてこないだろうけどね」
 毎朝、中々布団から出てこられないもう一人の同居人を思い出して笑みを溢しつつ、朝食に彩られる光景に「うんうん、美味しそう」と自画自賛。最後にお椀に二人分のコーンスープのタネを入れて個別にコーヒーの用意をしておいた。
 朝食の準備が済んだところで今度は洗面所から洗濯機が仕事を終えたと呼んでいる。ついでに「おせんたくものー」とミコの声も。
 機械は便利だ。スイッチ押しときゃ勝手に仕事をしてくれるんだから。
 エルが洗面所に向かうともそもそと洗濯機から洗濯物カゴに中身を移動させて進んで家事を手伝ってくれるミコの姿に朝から無駄に感動してとりあえず写メを1枚。彼女の両親に送る画像が増えた。
 そして振り返ったミコの小さな腕に抱えられた洗濯物カゴを受けとる前にもう1枚。両親に送る画像が更に増えた。
「はいっ」
「ありがとう、助かるよ。朝ご飯出来てるからね」
「うん!次のお仕事ーっ」
 パタパタと駆け出したミコが向かうのはリビングではない。
 もう一人の同居人、カイの部屋である。
 王華高校では風紀委員長を勤め、隙もなく見るからに堅物そうな(まぁ堅物だが)男──なのだが。実はとことん朝に弱かったりする。特に冬場は完全に起床するまで時間が掛かるようで、布団とお友達になる時間が長い。目覚まし時計も通常より早く設定すればいいのだがあまり効果は無いようだった。
「おにーちゃーん!あっさだよー!!」
 ミコの声を聞きながらその間にエルはさっさと洗濯物を干してしまう。あまり立派なアパートではないが、屋根付きベランダが有るのは助かると昼間は学校にいる身としては毎度有り難みを感じた。
 干し終えた頃には、この中で一番凄まじい寝癖をこさえたカイがミコに引かれて起きてくる。これもいつものタイミング。カイを洗面所に押し込み戻ってきたミコとハイタッチして、スープとインスタントコーヒーにお湯を注ぐと本日の朝食の準備は終わりだ。
「いっただっきまーす」
 無邪気に笑うミコが一足先に両手を合わして食前の挨拶と共にもりもりと食べ始め、それに和みながらエルは最後の支度を。学校で食べる昼食、弁当作りである。
 だが基本的には昨日の晩飯の残りや夜の内に準備していたおかずを詰め直すものなので、さっさと二人分の弁当は出来上がった。
 エルが炬燵に戻る頃、爆発した髪をまとめたカイがやってきて程好く飲みやすくなったコーヒーをテーブルに置く。
「おはよーはい、コーヒー」
「…ん、…おはよう」
「目覚めのいっぱーい」
「めざめのいっぱーい」
 調子良くハモる二人に返すほどまだ頭が覚醒していないカイがコーヒーを啜る。
 朝の一時間、そんなもの直ぐに過ぎ去ってしまうもの。漸く落ち着いて座ることが出来たら、他愛もない会話を交えるのが三人の朝食の時間である。

 それでも、このままごとのような生活が楽しくて仕方ない自分がいるのをエルは自覚していた。それぞれ、欠けてしまった家族を求めた形のようで、ちぐはぐでも幸せだった。





 全員が朝食を食べ終えるとカイが洗い物をやるのでその間にエルは着替えや学校の準備を、入れ違いでエルがごみ袋をまとめている間にカイが準備を済ませた。
 バタバタと動き回る二人をまだまだ体には大きいランドセルを背負ったミコが右へ左へと目で追いかけその顔は楽しそうに笑っている。
 途中、あっと何かを思い出したようにエルが自室に戻っていくと直ぐに戻ってきてミコの元へやってきた。
 その手には2つのマフラー。
「ミコ、今日寒くなるからマフラーしていった方がいいよ。…んー…ピンクのとチェック、どっちが可愛いかなぁ…」
「ピンクがいいだろ」
「おや。カイと意見が合うなんて珍しい。僕もピンクの方が…」
「わたしチェックがいいー」
「やっぱチェックだよねー!」
 コロリと変わるエルにカイは溜め息を吐きつつごみ袋を片手に玄関へ。
 ミコの前に膝立ちとなったエルが手早く少女の首回りをギンガムチェックのマフラーでシンプルクロスに包む。
「うんうん、可愛いね」
「ありがとー」
「じゃ、あとは…」
 最後にエルは立ち上がりベランダへ向かう。
 ここはアパートの2階だが他に陽を遮るような高い建物もないので、しっかりと拝める朝陽を前にぱんぱんと2回手を叩く。
「今日も事故や怪我なく、一日を過ごせますように」
「よーに!」
 何か特別なものがある訳でも無いが、とりあえずベランダから朝陽に向かってお願いするのがいつからかこの家での恒例となっている。制服に身を包んだエルの隣で、ランドセルを背負ったミコが真似して手を合わせた。
 そして玄関から飛んでくるカイの催促する声に今日のお願いタイムは終了となってミコが走っていき、エルはドアの鍵とカーテンを閉める。

 既に玄関で学校指定の革靴に足を通してダッフルコートで完全防備(そして片手にはごみ袋)なカイの姿に、毎朝見るあの爆発した頭や寝起きの悪さを他の生徒に見せてやりたいもんだと笑いながら鞄を担いでいざ学校へ。
「鍵は持ったか?」
「「持った!」」
 でこぼこな三人が暮らす、いつもと変わらない朝のこと。







「いってきまーす!」







*おわり*

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