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オリジナル創作の小ネタ置き場
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麗誕2012

「きれいな指ね」
 息を吐き出すように自然と麗の口から零れた言葉に、嵐はぴたりと静止する。
 ここは夫婦の寝室。
 布団の上に腰を降ろした嵐に背を預ける形で麗はゆったりと瞼を伏せた。彼女の視線はやや落とされ、それは自身の腹の上に置かれた夫の手を見詰めていた。
「嵐の指はきれいだわ」
 もう一度、今度は顔を上げ嵐の瞳を見つめながら笑う。
 嵐からすれば絹糸を掬い上げるように琴を爪弾く麗の指の方が"綺麗"と感じるし、竹刀を握る男の手にはとてもじゃないが似合う形容詞ではないだろうと眉をしかめた。
 それを察したように「あら。私変なこと言ったかしら?」と小さく笑った麗が顔にかかった髪を耳にかける。
「…きれいで、あたたかいわ」
「それは麗の方が、…あ」
「ふふふ、ほら、赤ちゃんだって「そうだぞー」って言ってるわよ」
 嵐の手のひらの下には命を宿した妻の腹。嵐が口を開けたと同時にその腹の中で、どん、と蹴飛ばされる感覚をお互いに感じ顔を見合わせて麗はまた笑う。
 昔からにこにこと笑う女性であったが、待ち望んだ妊娠以降はより一層笑顔でいることが多くなった。
 それでも、その表情が陰る期間も一時期はあった。
 そんな時は「この子の分かしらね、嬉しいときも悲しいときも、全部二倍になるの」と少しだけ出てきた腹を擦っていた。そこにある命を慈しむ眼差しは母のものであったのを、強烈な印象として嵐の記憶に刻まれている。
「嵐の指、好きよ」
「…指だけか?」
「ふふふー」
 母の顔にもなるし、今みたいに少女の顔にもなる。
 楽しそうに端をつり上がる桜貝のような唇に己のを重ね、クスクスと笑う麗の髪と耳にもキスを。
「誕生日おめでとう、麗」
 嵐は麗の絡めた指が触れる金属の冷たさと共に、受けた生と新たな命を抱き締めた。

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