オリジナル創作の小ネタ置き場
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時乃姉妹と雪奈先輩
さてここは王華高等学校家庭科室調理場前。
生徒も疎らな放課後のこの場所で今正に世紀の大手術が行われようとしていたのだった。
「…い、いくよ…」
「……うん…!」
淡い水の髪を三角巾で覆う少女と、隣で気難しそうに眉を寄せた黒髪の少女が共に一度大きく頷く。
双子の少女の視線の先は手元に落とされ、そこにあるのは──一尾の秋刀魚。ちょっと旬の季節は過ぎましたが、まな板の上に転がされたその秋刀魚を見つめる双子の手にも自然と力が込められる。
覚悟を決めたのかごくりと喉を鳴らしたのは包丁を持つ水の髪の少女・シロ。
その手に握られた一柄の包丁を仰々しく振り上げられ……
「わーーっ!ちょっと待ってーーー!」
「「うひゃっ!?」」
ズ ダ ン !
突然の乱入者の声に緊張状態だったシロの腕は秋刀魚の頭の数センチ横に包丁を叩き下ろし、更にびっくりした双子の妹・クロが揚げ物用にと横に備えておいたボウルと中の片栗粉をひっくり返してその場にぶちまけてしまう。
「……」
ぐわんぐわんと床を転がるボウルの音だけが家庭科室に響き渡る。若干情けない音だ。
足元を片栗粉まみれにして立ち尽くす双子と栗毛の少女の間から言葉が無くなるが、先に意識を取り戻したのは後者──シロたちが所属する家庭科部の先輩・矢島雪奈であった。
「あ…えと、その…ごめんね、驚かせちゃった…?でもあんまりにも危なっかしくて…」
「い、いえ…ごめんなさい、雪奈先輩…」
溢してしまった片栗粉を雑巾で片しながら項垂れる双子に優しく微笑みかけながら「あとね、お魚を捌くときは出刃包丁の方がいいわよ」と、シロの手からそっとパン切り包丁を受け取り元の場所へ終う彼女は中々奇抜な双子に内心溜め息を一つ…。
既に三年生たちは部活を引退し、後数ヶ月で自分が最高学年になると思うと更に新一年生の育成を自分に出来るのか不安だ。と友人である香月弥悠に嘆いたら「大丈夫、あの子達を超えるツワモノはそうそういないから」と一笑に付されたのは記憶に新しい。
確かにこの双子は中々強い一癖も二癖もあるが…
「シロちゃんは肩に力が入りすぎなのよ。お魚はね、こうして開くの」
出刃包丁を持ってきた雪奈は「いい?見ててね?」とシロとクロに笑いかけると、若干表面が乾いた秋刀魚に──どれだけの時間にらめっこしてたのかしら…──左手を添える。
包丁で鱗を取り、胸びれに刃先を差し込み頭を落とす。流れる水のように尾びれから頭に向かい包丁を滑らせ腹を開くと手慣れたように内臓を取り出し、水洗いを済ませばあっという間に秋刀魚の下処理が終わった。
「おぉー!」と感嘆の声を出すクロとキラキラとした瞳で拍手をするシロに苦笑しつつ、さてこの後は腹開きにするのかな、と考えたところではたと停止する。
「…あれ?シロちゃんたち、なんで秋刀魚下ろそうとしてたの?」
「「へ?」」
「放課後にわざわざ家庭科室使いたいって…理由はバレンタインデーのチョコ作りの練習じゃなかったっけ?」
「はい」
「秋刀魚美味しいから、チョコに入れてみようか!って昨日決めたんですよー」
見事なドヤ顔を決める双子に今度は盛大な溜め息を吐いた雪奈であった。
──バレンタインデーまであと8日…
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