オリジナル創作の小ネタ置き場
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当日
2月14日──バレンタインデー当日朝6時。
「おっにいちゃーーーん!!」
この日ばかりはエルの目覚ましが鳴る前に、突き抜けるような明るい声が小さなアパートの一室に響き渡ったのであった。
*2012VD-当日-*
ミコが布団をはね除けて、寝癖で飛び跳ねた髪もそのままに真っ先に向かったのは冷蔵庫。
そこから1つの可愛らしくラッピングした箱を取り出すと、小さな両手で大切そうに包み向かうのはただ一つ。朝一番でやってきたのは──カイの部屋だ。
扉を勢いよく開けると共に鞠が跳ねるようにぴょんぴょんとベッドの脇へ駆け寄って行く。
「お兄ちゃん!」
「……、〜」
こんもりと膨らんだ布団に向かい興奮を抑えきれないといった様子でミコはパタパタと手を上下に動かす。枕元でこんなにハイテンションで騒がれても、相変わらず朝に弱いカイは言葉にならない呻きでもぞもぞと動くだけ。
「お兄ちゃーん!」
「……ミ、コ……?」
負けじと声を張るミコに漸く反応を示したカイの寝惚け眼が少女を捉えれば、にっこりと向日葵のように笑うミコが目を輝かしていた。しかしこんな朝早くからどうしたんだ、と思いながら体を起こす。いつも朝起こしに来る比ではないミコの様子に「何かあったのか?」と問えば、更ににっこり笑う。
普段の倍になったんじゃないかと思われるくらいの寝癖をこさえたカイが首を傾げると、ミコはもう待てないといった様子でパッと立ち上がりその両手に持った物を彼の前に勢いよく差し出した。
「はいっ!」
それは赤いリボンが目を引くパールホワイトの箱。
まだ覚醒しきれていない頭で、目の前の箱がなんなのか考えるのに数十秒。ちょっとばかりリボンがよれている。
「…これは…?」
「ハッピーバレンタイン!」
祝いの言葉を口するミコとぽかんと間抜けな顔をするカイ。「どうぞ!」とミコの手から渡された箱は、カイが持つと小さく見えた。だけど、たくさんの愛情が込められたそれは大きさも重さも、今までの比にならない箱だった。
時間はかかったが、漸く自分が置かれた状況を理解したカイはその手に感じる重みと目の前で花咲く少女を何度も見比べて、その瞳を細める。
嬉しくて、少しだけ気恥ずかしくて。
「…ありがとう、ミコ」
なんとか絞り出せたお礼の言葉は小さく掠れてしまった。
同時刻、自室で枕に拳を叩き込み続けるエルの姿もあった訳だが、これは誰も知らない。
それから、箱を右手に持ったまま左手をミコに引かれリビングへやってきたカイは、ちょうど自室から出てきたエルと目が合う。彼の視線が素早く自身の左右の手を確認したのを見逃さなかった。
「お兄ちゃんおはよー!」
「おはよう、ミコ。カイもおはよう」
それは清々しいまでに満面の笑みでかけられた挨拶だったが、逆に恐ろしい。ミコに関しては地雷だらけのエルである。見事に嫉妬の刃を喉元に突き付けられた気分だ。
ミコが「ちゃんと渡せたよ!」と嬉々として報告している光景は和やかだが、エルの自分に向けられる視線の冷たさにカイは髪を掻き上げる。何を不貞腐れているんだ。
顔と歯を洗いに洗面所へミコが消えたのを見計らい、にこやかに笑うエルの隣に立った。
「…先に貰えなかったからと拗ねるな。ちゃんとお前の分も後でもらえるのだろ」
「何の事かな?」
「バレンタインデーの」
「何 の 事 か な ?」
「…」
頑なに会話を進めないエルの笑顔だが背後から溢れ出すどす黒い威圧感にたじろいだカイ。朝から触れるにはとてもじゃないがキツい。
これは一旦切り上げようと決めそそくさと洗面所に逃げた。
そして洗面所でミコにそれとなく聞いてみたら、他に配るチョコは父親と学校の友達だと胸を張っていて、エルの分のチョコを最初から用意していないことを知ってしまうのであった。
朝食を食べ終えた机を囲む3人が注目するのは、ミコからの手作りチョコが入った箱。ちょこんと置かれたそれは可愛らしい。
早く開けてみて!と見詰めてくるミコの視線に推されて、カイの指がゆっくりとリボンをほどき箱を開けると──綺麗に並べられたコロコロとしたものが。
「トリュフか」
「ねっねっどう?お兄ちゃんと私が作ったんだよ!」
「僕は横に立ってただけでほとんどミコがやったんだから。デコレーションもミコだよ、可愛く出来てるでしょ」
「ああ、綺麗だ。食べるのが勿体無いな」
二人が口に出す言葉に頬を赤くしながらふにふに笑うミコがココアを一口飲むと、まだ仕掛けがあるような顔でカイと箱を交互に見ている。
その視線に追われるように箱に注目すれば、個別に入れられた封筒を見付け手に取れば視界の端でエルも首をかしげていた。どうやら彼も知らない仕掛けのようだ。
「…これは…?」
封筒の中には綴り式になった星マークが書かれた色紙が連なっていて、紙の端には手書きで「なんでもおてつだいけん」と書かれていた。
「それはね、お誕生日プレゼント!お兄ちゃんおめでとう!!」
全部で18枚綴りのそれはカイの年の数だけあり、その券と引き換えに何でもお手伝いをするという名前の通りのプレゼントであった。
「へえ、素敵なプレゼントじゃないの」
「ふふ、そうだな」
「その券使えばわたしもエルお兄ちゃんも何でもやるよー」
「え。それ僕も有効なの」
「ほう、それは面白い」
ミコには見えないアングルで悪どく笑うカイを炬燵の中で蹴飛ばしつつ、「今日はミコが学校から帰ってきたら、月宮家に行くからね」と予定を告げたエルにミコも学校の準備しなきゃと慌ただしくこたつから抜け出すと自室へ行ってしまった。
残された二人とトリュフとお手伝い券。
手伝い券を見ながら微笑むエルの姿に、カイの長い指がきらきらと光るチョコを一つ摘まみ上げた。
「エル。《あ》」
「《あ》?」
突然振られた謎の言葉をおうむ返ししたタイミングを見計らい、ぽんと口に放られたチョコ。
理解する前に口内に広がる冷たさと甘さに目をしばたたかせたエルの間抜けな顔に吹き出したカイが茶を啜る。そのしたり顔がまた腹立たしくて、今度は手元にあったテレビのリモコンをその顔目掛けて全力で投げたがひょいと避けられたリモコンは無残にも壁に当たり電池を巻き散らかしながら床に落ちた。
***
「そろそろかしらねぇ」
時刻は午後三時。
邸の縁側に腰掛けた麗は穏やかな陽に当たりながら、澄み渡る青空に目を細める。
自宅の冷蔵庫に入れられたチョコの袋を一つ、二つ、三つ。と頭の中で数えながら手元の藍色の箱を白い指でなぞった。
*おしまい*
「おっにいちゃーーーん!!」
この日ばかりはエルの目覚ましが鳴る前に、突き抜けるような明るい声が小さなアパートの一室に響き渡ったのであった。
*2012VD-当日-*
ミコが布団をはね除けて、寝癖で飛び跳ねた髪もそのままに真っ先に向かったのは冷蔵庫。
そこから1つの可愛らしくラッピングした箱を取り出すと、小さな両手で大切そうに包み向かうのはただ一つ。朝一番でやってきたのは──カイの部屋だ。
扉を勢いよく開けると共に鞠が跳ねるようにぴょんぴょんとベッドの脇へ駆け寄って行く。
「お兄ちゃん!」
「……、〜」
こんもりと膨らんだ布団に向かい興奮を抑えきれないといった様子でミコはパタパタと手を上下に動かす。枕元でこんなにハイテンションで騒がれても、相変わらず朝に弱いカイは言葉にならない呻きでもぞもぞと動くだけ。
「お兄ちゃーん!」
「……ミ、コ……?」
負けじと声を張るミコに漸く反応を示したカイの寝惚け眼が少女を捉えれば、にっこりと向日葵のように笑うミコが目を輝かしていた。しかしこんな朝早くからどうしたんだ、と思いながら体を起こす。いつも朝起こしに来る比ではないミコの様子に「何かあったのか?」と問えば、更ににっこり笑う。
普段の倍になったんじゃないかと思われるくらいの寝癖をこさえたカイが首を傾げると、ミコはもう待てないといった様子でパッと立ち上がりその両手に持った物を彼の前に勢いよく差し出した。
「はいっ!」
それは赤いリボンが目を引くパールホワイトの箱。
まだ覚醒しきれていない頭で、目の前の箱がなんなのか考えるのに数十秒。ちょっとばかりリボンがよれている。
「…これは…?」
「ハッピーバレンタイン!」
祝いの言葉を口するミコとぽかんと間抜けな顔をするカイ。「どうぞ!」とミコの手から渡された箱は、カイが持つと小さく見えた。だけど、たくさんの愛情が込められたそれは大きさも重さも、今までの比にならない箱だった。
時間はかかったが、漸く自分が置かれた状況を理解したカイはその手に感じる重みと目の前で花咲く少女を何度も見比べて、その瞳を細める。
嬉しくて、少しだけ気恥ずかしくて。
「…ありがとう、ミコ」
なんとか絞り出せたお礼の言葉は小さく掠れてしまった。
同時刻、自室で枕に拳を叩き込み続けるエルの姿もあった訳だが、これは誰も知らない。
それから、箱を右手に持ったまま左手をミコに引かれリビングへやってきたカイは、ちょうど自室から出てきたエルと目が合う。彼の視線が素早く自身の左右の手を確認したのを見逃さなかった。
「お兄ちゃんおはよー!」
「おはよう、ミコ。カイもおはよう」
それは清々しいまでに満面の笑みでかけられた挨拶だったが、逆に恐ろしい。ミコに関しては地雷だらけのエルである。見事に嫉妬の刃を喉元に突き付けられた気分だ。
ミコが「ちゃんと渡せたよ!」と嬉々として報告している光景は和やかだが、エルの自分に向けられる視線の冷たさにカイは髪を掻き上げる。何を不貞腐れているんだ。
顔と歯を洗いに洗面所へミコが消えたのを見計らい、にこやかに笑うエルの隣に立った。
「…先に貰えなかったからと拗ねるな。ちゃんとお前の分も後でもらえるのだろ」
「何の事かな?」
「バレンタインデーの」
「何 の 事 か な ?」
「…」
頑なに会話を進めないエルの笑顔だが背後から溢れ出すどす黒い威圧感にたじろいだカイ。朝から触れるにはとてもじゃないがキツい。
これは一旦切り上げようと決めそそくさと洗面所に逃げた。
そして洗面所でミコにそれとなく聞いてみたら、他に配るチョコは父親と学校の友達だと胸を張っていて、エルの分のチョコを最初から用意していないことを知ってしまうのであった。
朝食を食べ終えた机を囲む3人が注目するのは、ミコからの手作りチョコが入った箱。ちょこんと置かれたそれは可愛らしい。
早く開けてみて!と見詰めてくるミコの視線に推されて、カイの指がゆっくりとリボンをほどき箱を開けると──綺麗に並べられたコロコロとしたものが。
「トリュフか」
「ねっねっどう?お兄ちゃんと私が作ったんだよ!」
「僕は横に立ってただけでほとんどミコがやったんだから。デコレーションもミコだよ、可愛く出来てるでしょ」
「ああ、綺麗だ。食べるのが勿体無いな」
二人が口に出す言葉に頬を赤くしながらふにふに笑うミコがココアを一口飲むと、まだ仕掛けがあるような顔でカイと箱を交互に見ている。
その視線に追われるように箱に注目すれば、個別に入れられた封筒を見付け手に取れば視界の端でエルも首をかしげていた。どうやら彼も知らない仕掛けのようだ。
「…これは…?」
封筒の中には綴り式になった星マークが書かれた色紙が連なっていて、紙の端には手書きで「なんでもおてつだいけん」と書かれていた。
「それはね、お誕生日プレゼント!お兄ちゃんおめでとう!!」
全部で18枚綴りのそれはカイの年の数だけあり、その券と引き換えに何でもお手伝いをするという名前の通りのプレゼントであった。
「へえ、素敵なプレゼントじゃないの」
「ふふ、そうだな」
「その券使えばわたしもエルお兄ちゃんも何でもやるよー」
「え。それ僕も有効なの」
「ほう、それは面白い」
ミコには見えないアングルで悪どく笑うカイを炬燵の中で蹴飛ばしつつ、「今日はミコが学校から帰ってきたら、月宮家に行くからね」と予定を告げたエルにミコも学校の準備しなきゃと慌ただしくこたつから抜け出すと自室へ行ってしまった。
残された二人とトリュフとお手伝い券。
手伝い券を見ながら微笑むエルの姿に、カイの長い指がきらきらと光るチョコを一つ摘まみ上げた。
「エル。《あ》」
「《あ》?」
突然振られた謎の言葉をおうむ返ししたタイミングを見計らい、ぽんと口に放られたチョコ。
理解する前に口内に広がる冷たさと甘さに目をしばたたかせたエルの間抜けな顔に吹き出したカイが茶を啜る。そのしたり顔がまた腹立たしくて、今度は手元にあったテレビのリモコンをその顔目掛けて全力で投げたがひょいと避けられたリモコンは無残にも壁に当たり電池を巻き散らかしながら床に落ちた。
***
「そろそろかしらねぇ」
時刻は午後三時。
邸の縁側に腰掛けた麗は穏やかな陽に当たりながら、澄み渡る青空に目を細める。
自宅の冷蔵庫に入れられたチョコの袋を一つ、二つ、三つ。と頭の中で数えながら手元の藍色の箱を白い指でなぞった。
*おしまい*
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