オリジナル創作の小ネタ置き場
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カイと里玖くん
昔からこんなに低いテンションだった訳ではない。
小さい頃は年相応に笑ったり泣いたり怒ったりと感情も豊かだったし、それなりにバカもしてたと思う。若干熱さの差はあったとは思うが。
やんちゃした小学生時代は高学年になるにつれ周囲への観察眼の意識が生まれ、中学デビューと共にまだまだ浅い人生の中で酷使した(気はあまりないのだが)両の目の視力の低下に伴い眼鏡デビューも果たした。
思えばそのくらいから、如月カイは中学生には似つかわしくない落ち着きを纏い始めていたような気もするかも、と腐れ縁の彩月エルはレシピ本を眺めながら適当に答える。今日の夕飯は豚肉とじゃがいもの煮っ転がしにしよう、と意識は完全に夕飯について向かっているが。
そんな事を言われつつ彼はあまりバカをしなかった中学生時代で「真面目」「お堅い」「冗談が通じない」等の有り難くもないイメージを周囲が勝手に抱き、またそれに対しての反抗も面倒だったのでカイは思うように過ごしていた。
そう、彼はマイペースである。
でもやりたい仕事は率先して行ったし始めたからには最後までやり通す責任だってしっかりと持っていたし、本当に嫌なことには嫌だと言葉にも行動にも起こせる力だってある。周囲の評価には興味が無かったので、彼本来が備えていた力と仕事をこなす姿に一人歩きしたイメージがいつの間にか「優等生の彼」を作り上げてしまったのだが、元々は結構適当な人間であった。
そんな適当な彼だが、最も近い人間である男が彼を越えるしょうもない男だった。適当の塊に手足が生えたような人間だったので、兄気質であったカイは「ああ俺がしっかりするべきか」とした意識を抱えるようになったのも、今現在の彼を形成した要因だったのかも知れない。
気付けばポーカーフェイスを超え鉄仮面を装着したように、ちょっとやそっとじゃ動じない精神さえも会得していた。
さて。
前フリが長くなったが、そんな彼は現在王華高等学校最高学年・元風紀委員長。
本来、この時期は自由登校日となっていて登校は任意であり次にクラスメイトたちと顔を会わすのは卒業式だ。そんな期間にカイは一人廊下を進む。
いつもはピンと伸ばされた背中だが今は心なしか哀愁さえ感じる様に、3年間通った校舎とも後数ヶ月での別れに感傷的になっているのかと思う生徒も居ただろう。因みに現在は1・2年生は授業中なので長い廊下の後にも先にも人影は見えないが。
──しかし今のカイの頭には、卒業に関することなどこれっっっぽっちも無い。
今日はたまたま職員室に所用があって登校していた。
それは書類を提出するだけのことだったが担任と少しだけ雑談をしていたら、地味に時間が経っていたのに気付き適当なところで話を切り上げて出てきたところである。
普段、FCのメンバーに付きまとわれ移動しにくいことに腹立たしい思いしかしなかった廊下を、今は悠々と歩けるのが新鮮だったがこの場所を歩けるのも後少しなのだな、と中瀬里玖はぼんやりと考える。
人気の無い廊下から中庭を見下ろしていると、廊下の曲がった先にも同じように立ち止まっている影を見付けた。
よく見なくとも直ぐに知り合いと気付きそれに対して少し考えたが、中瀬はその歩みを彼の元へ向ける。それが己と同じ珍しい銀の髪を持つ同級生だったからというのも手伝ったのかもしれない。
「如月、来てたんだな」
「……中瀬」
(お互いそういうキャラではないというのもあるが)肩を組み笑い合うような仲の良い関係ではないし、どちらかと言えばエルの方が中瀬に絡みに行くことが多かったがカイと中瀬自身も多少交流はあった。
180cmを優に超える長身にこの銀髪、加えて中瀬のビジュアルも手伝い二人が並べばそれはそれは悪目立ちする絵面であるが、今はこの二人以外に人が居ないのが救いであろうか。
だが元々あまり会話が弾まない性分なので、最初の挨拶のまま静寂が訪れたのも自然な流れだった。話し掛けてみたものの、若干気まずい。
「…?」
しかしそこで、中瀬は違和感を感じて眉を寄せる。
目の前の彼は普段見掛けていた雰囲気とは随分と違い、なんというか、そうだ、覇気とか生気とか何か人間的な物が欠如しているような様子に気付く。
長い付き合いでも深い付き合いでも無いが、それでも察してしまえる普段の彼とは思えぬ雰囲気に思わず「何かあったのか?」と問いかけてしまっていた。
「……」
カイは僅かに片眉を動かしたが、アクションはそれだけで黙り状態が続く。
…踏み込んではならない領域だったか?
「…悪かった、言いづらいことならば無理して言わなくてもいい。だがいつもと雰囲気が違ったから気になってな」
「……いや…他者からしたら本当に下らない内容だ。気を遣わせてすまない」
ブリッジを押し上げたレンズの向こうの赤い瞳は先程から変わらずに死んだままであったが、ずかずかと入り込んでいい問題なのか、そもそもそこまで話を聞かせてくれる仲なのか、色々と考えている内に今度はカイから会話を振ってきた。
「中瀬はこの後どうするんだ?」
「そう、だな…会えそうなら彼女を待って一緒に帰る、かな」
「そうか。後1時間程度で下級生の授業も終わる頃合いだしな。…まぁ、気を付けろよ」
最後の言葉には色々と含まれていたことに中瀬は苦笑しつつ、「じゃあな」と踵を返し歩いていくカイの姿が廊下を曲がって見えなくなるまで見届けた。
窓から見える空は、まだまだ明るい。
そして、カイが階段の踊り場に差し掛かった時に受信した一通のメール。
2012/02/10 13:42
from:エル
sub:無題
---
晩飯まで帰ってくんなよ
END
---
今日の朝、ミコに同じ言葉を突然叩き付けられ、エルに自宅から追い出され、行き場所も無かったので制服に袖を通すと登校した。
カイは学校へ向かう途中少しだけ泣いた。
この直後にミコからの「かえってきちゃだめー(>_<)」なんていう追い討ちメールにさらに泣いた。
──バレンタインデーまであと4日…
*****
小さい頃は年相応に笑ったり泣いたり怒ったりと感情も豊かだったし、それなりにバカもしてたと思う。若干熱さの差はあったとは思うが。
やんちゃした小学生時代は高学年になるにつれ周囲への観察眼の意識が生まれ、中学デビューと共にまだまだ浅い人生の中で酷使した(気はあまりないのだが)両の目の視力の低下に伴い眼鏡デビューも果たした。
思えばそのくらいから、如月カイは中学生には似つかわしくない落ち着きを纏い始めていたような気もするかも、と腐れ縁の彩月エルはレシピ本を眺めながら適当に答える。今日の夕飯は豚肉とじゃがいもの煮っ転がしにしよう、と意識は完全に夕飯について向かっているが。
そんな事を言われつつ彼はあまりバカをしなかった中学生時代で「真面目」「お堅い」「冗談が通じない」等の有り難くもないイメージを周囲が勝手に抱き、またそれに対しての反抗も面倒だったのでカイは思うように過ごしていた。
そう、彼はマイペースである。
でもやりたい仕事は率先して行ったし始めたからには最後までやり通す責任だってしっかりと持っていたし、本当に嫌なことには嫌だと言葉にも行動にも起こせる力だってある。周囲の評価には興味が無かったので、彼本来が備えていた力と仕事をこなす姿に一人歩きしたイメージがいつの間にか「優等生の彼」を作り上げてしまったのだが、元々は結構適当な人間であった。
そんな適当な彼だが、最も近い人間である男が彼を越えるしょうもない男だった。適当の塊に手足が生えたような人間だったので、兄気質であったカイは「ああ俺がしっかりするべきか」とした意識を抱えるようになったのも、今現在の彼を形成した要因だったのかも知れない。
気付けばポーカーフェイスを超え鉄仮面を装着したように、ちょっとやそっとじゃ動じない精神さえも会得していた。
さて。
前フリが長くなったが、そんな彼は現在王華高等学校最高学年・元風紀委員長。
本来、この時期は自由登校日となっていて登校は任意であり次にクラスメイトたちと顔を会わすのは卒業式だ。そんな期間にカイは一人廊下を進む。
いつもはピンと伸ばされた背中だが今は心なしか哀愁さえ感じる様に、3年間通った校舎とも後数ヶ月での別れに感傷的になっているのかと思う生徒も居ただろう。因みに現在は1・2年生は授業中なので長い廊下の後にも先にも人影は見えないが。
──しかし今のカイの頭には、卒業に関することなどこれっっっぽっちも無い。
今日はたまたま職員室に所用があって登校していた。
それは書類を提出するだけのことだったが担任と少しだけ雑談をしていたら、地味に時間が経っていたのに気付き適当なところで話を切り上げて出てきたところである。
普段、FCのメンバーに付きまとわれ移動しにくいことに腹立たしい思いしかしなかった廊下を、今は悠々と歩けるのが新鮮だったがこの場所を歩けるのも後少しなのだな、と中瀬里玖はぼんやりと考える。
人気の無い廊下から中庭を見下ろしていると、廊下の曲がった先にも同じように立ち止まっている影を見付けた。
よく見なくとも直ぐに知り合いと気付きそれに対して少し考えたが、中瀬はその歩みを彼の元へ向ける。それが己と同じ珍しい銀の髪を持つ同級生だったからというのも手伝ったのかもしれない。
「如月、来てたんだな」
「……中瀬」
(お互いそういうキャラではないというのもあるが)肩を組み笑い合うような仲の良い関係ではないし、どちらかと言えばエルの方が中瀬に絡みに行くことが多かったがカイと中瀬自身も多少交流はあった。
180cmを優に超える長身にこの銀髪、加えて中瀬のビジュアルも手伝い二人が並べばそれはそれは悪目立ちする絵面であるが、今はこの二人以外に人が居ないのが救いであろうか。
だが元々あまり会話が弾まない性分なので、最初の挨拶のまま静寂が訪れたのも自然な流れだった。話し掛けてみたものの、若干気まずい。
「…?」
しかしそこで、中瀬は違和感を感じて眉を寄せる。
目の前の彼は普段見掛けていた雰囲気とは随分と違い、なんというか、そうだ、覇気とか生気とか何か人間的な物が欠如しているような様子に気付く。
長い付き合いでも深い付き合いでも無いが、それでも察してしまえる普段の彼とは思えぬ雰囲気に思わず「何かあったのか?」と問いかけてしまっていた。
「……」
カイは僅かに片眉を動かしたが、アクションはそれだけで黙り状態が続く。
…踏み込んではならない領域だったか?
「…悪かった、言いづらいことならば無理して言わなくてもいい。だがいつもと雰囲気が違ったから気になってな」
「……いや…他者からしたら本当に下らない内容だ。気を遣わせてすまない」
ブリッジを押し上げたレンズの向こうの赤い瞳は先程から変わらずに死んだままであったが、ずかずかと入り込んでいい問題なのか、そもそもそこまで話を聞かせてくれる仲なのか、色々と考えている内に今度はカイから会話を振ってきた。
「中瀬はこの後どうするんだ?」
「そう、だな…会えそうなら彼女を待って一緒に帰る、かな」
「そうか。後1時間程度で下級生の授業も終わる頃合いだしな。…まぁ、気を付けろよ」
最後の言葉には色々と含まれていたことに中瀬は苦笑しつつ、「じゃあな」と踵を返し歩いていくカイの姿が廊下を曲がって見えなくなるまで見届けた。
窓から見える空は、まだまだ明るい。
そして、カイが階段の踊り場に差し掛かった時に受信した一通のメール。
2012/02/10 13:42
from:エル
sub:無題
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晩飯まで帰ってくんなよ
END
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今日の朝、ミコに同じ言葉を突然叩き付けられ、エルに自宅から追い出され、行き場所も無かったので制服に袖を通すと登校した。
カイは学校へ向かう途中少しだけ泣いた。
この直後にミコからの「かえってきちゃだめー(>_<)」なんていう追い討ちメールにさらに泣いた。
──バレンタインデーまであと4日…
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