オリジナル創作の小ネタ置き場
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エンと雁也くん
「…はぁ……」
「……」
王華高等学校第一学年教室の昼休み。
会話に花を咲かせながらの昼食を取る生徒もいれば携帯片手にだらける生徒の姿も、それぞれ自由な時間を過ごすそんな昼休み。
「…はー…」
「……」
「…ぁー…」
「……」
「…ふー…」
「……」
「はぁ〜…」
「……ウザいんだけど」
構ってください突っ込んでください話聞いてくださいと言わんばかりの腐ったオーラを読書に勤しむ佐伯雁也の隣の席で醸しまくっていたのは、同級生のブロッコリー男こと狼縁であった。
構ったら敗けだ突っ込んだら敗けだ話かけたら敗けだと念じながら活字の世界へ意識を向けていたのだが、運が悪いのか調子が悪いのかどうにも今日は中々世界に入り込めない。
キノコさえ栽培出来そうなじめじめ感にとうとう声をかけてしまったら、エンは物凄い隈を作った顔を油の切れたロボットのような動きで雁也の元へ向けた。
なんだその濁った眼。
抑揚の無い声で吐き出せば、エンはまた机に額を押し付け溜め息。
「…バレンタイン…」
「は?」
「…来週バレンタイン、じゃん…シロがね…手作りでチョコくれるんだって…」
なんだロノケか。
構ったことをアホらしく思ったが、その次に辿り着いた結果に雁也は少しだけ顔をしかめる。
前は勝手に集まってきては人の席の前で弁当を広げて一方的な昼食タイムとなっていたが、思えばここ数日はその女子生徒と昼食を共にしていなかった。普段の弁当は家政婦が作っておくらしいが……
…あの時乃双子直々の手作りとなると。
「骨は拾ってやるさ」
非常にすんなりと出た言葉だったが、もぞもぞと動くエンは多分首を振っているようで。
「……いや、そこは良いんだ、大丈夫、気にしてない……」
年末年始も乗り切ったし……と溢す彼は、想い人であった同級生の彼女と2ヶ月前に晴れて恋人同士という関係になれたのだ。
その相手がぶっ飛んだ感性の持ち主で独創性に特化していると言えば聞こえはいいが、結局は脱線だらけのトロッコレールの上で軍事用ロケットを飛ばすことを夢見る不思議ちゃんというわけであった。
その不思議っぷりは料理の面にも発揮され、味覚を含め様々なものを母親の胎内に置いてきてしまったということでエンたち周りの人間は理解している。
そんな彼女たちの手作りチョコ…今までのことを思えば第三者でも戦慄くものだ。
しかしエンは、それは気にしてないそうだ。どんだけ勇者なんだコイツ、恋は盲目だとかそういうレベルじゃない。と純粋に思う雁也であった。
「…でも…」
長い沈黙の後、絞り出された声は荒れ果てた大地でその地を撫でる風のように枯れ果てたエンの声。
同級生として、同じ双子として、いつの間にやら友人として、なんだかんだで交流のあった男だ。ここはしっかり聞いてやるか、と読んでいたハードカバーの本を閉じ怪訝そうに眉を寄せつつも雁也はエンの言葉の続きを待つ。
普段は爽やかかつ穏やかに笑っていることが多いエンなので、ここまで腐られると調子が狂う。今は後頭部しか見えない。
「…でもさ…」
「でも?」
焦れったくなって聞き返すと、ガタッと激しく上体を起こしたエンはボサボサになった緑色の髪をそのままに
「バレンタインデーのチョコを作るのは嬉しいしどんなものが来るのか少し怖いけどやっぱりかかかか彼女の手作りってのは楽しみだよ!だけどだけどだけど最近その練習のために一緒に帰れないし夜もメールしても電話しても「ごめんねー眠くなっちゃってー」ですぐ切られちゃうし一緒に居られる時間がごっさり削られちゃってることの方が俺にとっては死活問題な訳でね!!どう思う雁也!?」
「爆発しろ」
「兄さん、最近あの赤髪ヤンキーがテンション低くてキノコ生えそうで気持ち悪いんだけど」
「放っとけ。来週には治る」
「?」
──バレンタインデーまであと6日…
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