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オリジナル創作の小ネタ置き場
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エルとミコ




 王道ストレートに生チョコやトリュフでもいいが、他にもマドレーヌやクッキー・ブラウニー・パイ…チョコを加えたスイーツの幅は、一言に「手作りバレンタインチョコ」といえど多岐に渡っている。
 ──さて、どうしようか。
 訳有って預かっている子供から「バレンタインチョコの作り方を教えて欲しい」と言われた夜を終えた翌日。最初こそは衝撃を受け涙を流す暇さえ無かったが、気持ちを切り替え華やか賑やかに菓子が並ぶ紙面を眺めながらエルは目を細めた。
 エルにとって、ミコのお願いは絶対だ。
 溺愛の域を越えた愛情というのは今は置いておき、彼女が満足出来る物を作れるように出来る限りのサポートをしてやろうと心に固く誓っていた。
 あまり多くはない私物の中から料理本やレシピ集(雑誌やチラシに掲載されていた物の切り取ったものも含め)、その中から今回役に立ちそうな菓子系列のレシピのピックアップ作業をやっている。(因みに邪魔になるので憎き眼鏡は家から追い出した)
「これ可愛い!あ、こっちも可愛いー!!」
 分けていったレシピの先にいるミコが目を輝かせながらはしゃぐ様子は正直言って可愛い。超可愛い。マジ天使。と軽く暴走気味のエルはさておき、「どれも美味しそうだねー」と笑うミコはミコなりに作りたい希望のレシピを分けているようである。
 日常でエルの料理を手伝うことはあってもそれは冷蔵庫から言われたものを出したり皿を用意したりと、実質料理には触れてないことばかりだ。
 そんな彼女が料理メインとなる作業をするのは、期待と心配が入り交じる。
「どれがいいかなー…」
「そうだねぇ、デコレーション出来るタイプの方がアレンジが生きるかな」
「デコレーション?」
「チョコペンとかスプレー、果物とかで自分が好きなようにデコれるから可愛いよ」
「おー!」
 それじゃあこういう可愛いのをわたしが作れるのっ?とあれやこれやと写真を指す小さな指、キラキラと輝く目で見詰められたら、そりゃもう頭を撫で回したくなるのはお察しください。
 デコ系はオリジナリティが出てくるのでそれに重きを置いて、あとは土台となる部分の調理が比較的単純な物をチョイスすればなんとかなるだろう。
「(…となると、どんなのがいいかなー…)」
 マシュマロのようなミコの頬っぺたをつつきながら、エルは脳内に蓄積したレシピの検索をするのだった。



















 それから一週間。
 明後日に本番を控えた日曜日。作業に取り掛かるには若干タイミングがズレたと言える日である。
 勿論、カイは家から追い出してあるが、何か察したのだろう。先週の様子とは違い「19時頃に戻る」と言い残して出ていった。流石に感付いたか、とエルは思ったが、ミコは気付いていない様子なのでまぁいいやと道具を用意していった。

 タルトやマフィンなどの焼き菓子となると前日に下準備し当日の朝焼くのが望ましいのだが、作りやすさも踏まえて最終的には王道トリュフで落ち着いた。これならばデコレーションも色々出来るし。
 他の焼き菓子はまた別の機会に作る約束をして、「トリュフ作り頑張るぞー!」「おーっ!!」と、二人の戦いは始まった。


 トリュフ作りに必要な材料は金曜日に買い出しに行き、流石はシーズン、バレンタインで賑わうコーナーは乙女たちの戦場になっていたが目的の物はゲットした。乙女と言えどそれぞれ躍起となり品定めする横顔はハンターそのものであの恐ろしい光景は思い出すだけでもゾッとする。
 エルが回りの奇異の目に晒されながら材料を集めてる中、ミコはごった返す隙間を縫って自分好みのラッピング一式を持って無事生還したちゃっかりっぷりには驚いたが。やはりこの子は将来大物になるだろう。



 ごほん。
 材料や道具をキッチンに並べたエルがわざとらしく咳払いをすると、左手を腰に当てて右の人差し指をピッと立てた。
「ではここで問題です。チョコを溶かしたい場合はどうするのでしょうか?(1)温めたフライパンで溶かす(2)お湯にボウルを浸しその熱で溶かす(3)焼く」
「二番!」
「せいかーい。ではその事は何て言うのかな?」
「えーっと…ゆー…湯煎っ」
「ちゃんと憶えてたね、偉い偉い」
 トリュフを作るにあたり数日前に基礎的な知識をミコに教えておいたが、しっかりと右手を上げて答える少女に和みつつ淡い翠の髪を覆う三角巾を正してあげる。先程から始終顔が緩みっぱなしであるがもう気にするだけ無駄だ。(因みに先程の素人でも分かるような問題で時乃双子は迷わず一番と三番を実行済み)
 調理の主役はあくまでもミコである。エルはその隣でサポートをすることに徹しそれでも時折危なっかしい手つきながらも一つ一つ進めていくミコに、こうして自分で色々と物事をこなして成長していくんだなぁと微笑むエルは兄の顔だ。
 そして慣れない手つきだが漸く生クリームとチョコが馴染んだところで湯煎から上げ、更にかき混ぜればヘラに重みを感じ出す。
「お兄ちゃん、チョコこんくらいかな?」
「そうだね。じゃあバッドに入れて冷やそうか。その間休憩しよう」
「ふふふー早くコロコロしたいなー」
「でも結構量あるねぇ。トリュフの大きさによるけどたくさん出来るかも…」
「大丈夫!お父さんもカイお兄ちゃんもおっきいからたくさん食べるもん!!」
 あの二人甘いもの食べると顔が渋くなるんだけどね。

 チョコをバッドに流し込みながら「お父さんさんたち喜んでくれるかなー」とミコが幸せそうなのと、そして彼女からチョコを貰える二人への嫉妬も込めてエルは口に出せなかった。
 ミコからの手作りチョコを貰い食べておきながら微妙な顔の1つでもしてみろ───その顔にチョコパイ叩き付けて口にホットココア流し込んでやるぞ。


 そんな念をバッド共に冷蔵庫へ押し込んだ。







 ──バレンタインデーまであと2日…







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