オリジナル創作の小ネタ置き場
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双子が保護され始めてから少し経った時くらいの話。
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なーぅ
革張りのソファーに身を沈ませていたカイは、場違いなその音に瞼を開いた。
ゆっくりと光を慣らす目は殺風景な部屋を写し、瞬きの音さえ聞こえそうなまでにしんと鎮まりかえる部屋に背後の水面がゆらり揺れる。
んなー
また、一鳴き。
今度は足元から。やはり先程のは聞き間違いではなかった。
体を起こすとそこには見慣れぬ一匹の白い子猫。いや、子猫というには成長しているが成猫というにはまだ幼い、成長途中の若い猫だ。零れ落ちそうな真ん丸の瞳と首に緩く巻いた赤い布が尻尾と共に揺れた。
じっと見上げてくる若い猫の瞳に少しだけカイは眉を寄せる。
"番人"と称されるカイとエルが存在するこの空間は特殊なものであり、久方ぶりに無害な生き物に出会ったことでの戸惑いだ。
因みにいつも隣にいる相棒は時の間の双子の様子を見に行くと言い残していなくなった。数時間前に。
「…何処から迷い込んで来たんだ」
手を伸ばしても逃げる様子を見せない猫を抱き上げる。抵抗もせずくりくりと目を動かして顔を見てくる猫は間抜け面だった。
触れ合った瞬間にすっと馴染む不思議な違和感。
温もりを肌で感じてゆっくりと壊れ物を扱うように腕に抱いた。顎を撫でれば喉を鳴らしすらりと通る鼻筋を指でなぞるとくすぐったそうに目を閉じる無防備な姿。
ソファーに自らの体を沈め直し猫を腿の上に下ろしても猫は退く気がないのかゴロゴロと機嫌良さそうにカイの体に擦り寄ってくる。
「……」
無言のまま視界の端にある自分のマフラーの先を見た。そして続いて目の前の猫の首で揺れる赤い布。
まさかな…と自嘲気味に吐き出した言葉に答える相手は居ない。
変わりに猫がまた一鳴きした。
白猫の瞳は、紅だ。
それからどのくらい経ったか─膝上の猫は体を丸めて眠ってるからもしかしたら結構な時間かもしれないが─気付いたら隣にエルが座っていた。
「良く眠れた、かな?」
カイとその猫を指して口元を三日月にしたエルが笑う。
髪と同じ金の睫毛に縁取られた彼の青い瞳を見て、少しだけ安堵したカイは視線を白猫へ戻した。穏やかに眠る小さな体を撫でる。これは珍しいものを見たと言わんばかりの顔をしたエルへ一睨みを忘れずに。
「その子、カイがお気に入りみたいだね」
「…」
「きれいな子」
そして彼はまた笑う。
そこで初めてカイはエルの腕に抱かれている存在に気付いた。青い布を巻いた青い瞳の黒い猫。ジッと見つめてくる黒猫はこの白猫と同じくらいの大きさで、だがそれ以外は対称的なもの。
それは初めての感覚ではない、ずっと近くに感じていた違和感。
カイとエルが守ってきた存在。
「…時の双子…か」
疑問は口に出すとあっさりと馴染んだ。
だが何か引っ掛かる。
何が引っ掛かる?ああそうだ、彼女達は彼処から出れる訳が無いからだ。
「正解。だけど半分」
応えるエルの腕の中で黒猫が鳴く。
その声につられるように耳を動かした白猫の首が持ち上がると、のびのびと体を伸ばしていた。音もなく黒猫が白猫に寄り添うと二匹は鼻頭を合わせて、互いの存在を確認しあっている。──その姿は、砂時計で隔たれ触れ合う事の出来ないあの双子の姿を連想させた。
「半分とは?」
「この猫は双子であって双子じゃないってこと」
要領を得ない回答だがエルの横顔に、先を問う言葉を飲み込んだ。
何処か遠くを思うような、ぼんやりとした表情。ゆっくりと伏せられた瞼の裏に過去の記憶を写しているんだろうか。双子が絡むとエルは時々こうなる。それを理解しているからカイは何も言わずじっと待った。
その間、猫はじゃれ合いもつれ合いソファーの下に落ちていく。ぶにゃ、と不細工な声を出したのは下敷きになった黒猫。バタバタと部屋の中を走り回る猫たちに口元を緩めたエルがゆっくりと動く。
「あの子たちは、眠っていたよ」
か細い声は掠れていたが、しっかり聞こえた。
「夢を見てるの」
「…あの猫が双子の夢とでも?」
「外に出たいだけ、なんだよ。強く強くその気持ちを抱いてるから、力が反応したんだと思う」
双子が居る時の間は、この空間な中で最も不安定だ。
長い間、そこに閉じ込められた双子とその空間の意識の波長がたまたま合ってしまった。そんな単純な話ではないだろうが、追及は止めた。
例え夢だとしても、ここが限界なのだ。
あの双子はこの空間から出ることが出来ない、それを改めて実感してしまったから。
そして
「目を覚ましたね」
二匹の猫は、消えていた。
「いっそのこと、引っ掻いてくれればよかったのに」
何であの子たちは、無防備に擦り寄ってきたんだろうね。
その言葉にカイは頷きもせず瞼を伏せた。
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なーぅ
革張りのソファーに身を沈ませていたカイは、場違いなその音に瞼を開いた。
ゆっくりと光を慣らす目は殺風景な部屋を写し、瞬きの音さえ聞こえそうなまでにしんと鎮まりかえる部屋に背後の水面がゆらり揺れる。
んなー
また、一鳴き。
今度は足元から。やはり先程のは聞き間違いではなかった。
体を起こすとそこには見慣れぬ一匹の白い子猫。いや、子猫というには成長しているが成猫というにはまだ幼い、成長途中の若い猫だ。零れ落ちそうな真ん丸の瞳と首に緩く巻いた赤い布が尻尾と共に揺れた。
じっと見上げてくる若い猫の瞳に少しだけカイは眉を寄せる。
"番人"と称されるカイとエルが存在するこの空間は特殊なものであり、久方ぶりに無害な生き物に出会ったことでの戸惑いだ。
因みにいつも隣にいる相棒は時の間の双子の様子を見に行くと言い残していなくなった。数時間前に。
「…何処から迷い込んで来たんだ」
手を伸ばしても逃げる様子を見せない猫を抱き上げる。抵抗もせずくりくりと目を動かして顔を見てくる猫は間抜け面だった。
触れ合った瞬間にすっと馴染む不思議な違和感。
温もりを肌で感じてゆっくりと壊れ物を扱うように腕に抱いた。顎を撫でれば喉を鳴らしすらりと通る鼻筋を指でなぞるとくすぐったそうに目を閉じる無防備な姿。
ソファーに自らの体を沈め直し猫を腿の上に下ろしても猫は退く気がないのかゴロゴロと機嫌良さそうにカイの体に擦り寄ってくる。
「……」
無言のまま視界の端にある自分のマフラーの先を見た。そして続いて目の前の猫の首で揺れる赤い布。
まさかな…と自嘲気味に吐き出した言葉に答える相手は居ない。
変わりに猫がまた一鳴きした。
白猫の瞳は、紅だ。
それからどのくらい経ったか─膝上の猫は体を丸めて眠ってるからもしかしたら結構な時間かもしれないが─気付いたら隣にエルが座っていた。
「良く眠れた、かな?」
カイとその猫を指して口元を三日月にしたエルが笑う。
髪と同じ金の睫毛に縁取られた彼の青い瞳を見て、少しだけ安堵したカイは視線を白猫へ戻した。穏やかに眠る小さな体を撫でる。これは珍しいものを見たと言わんばかりの顔をしたエルへ一睨みを忘れずに。
「その子、カイがお気に入りみたいだね」
「…」
「きれいな子」
そして彼はまた笑う。
そこで初めてカイはエルの腕に抱かれている存在に気付いた。青い布を巻いた青い瞳の黒い猫。ジッと見つめてくる黒猫はこの白猫と同じくらいの大きさで、だがそれ以外は対称的なもの。
それは初めての感覚ではない、ずっと近くに感じていた違和感。
カイとエルが守ってきた存在。
「…時の双子…か」
疑問は口に出すとあっさりと馴染んだ。
だが何か引っ掛かる。
何が引っ掛かる?ああそうだ、彼女達は彼処から出れる訳が無いからだ。
「正解。だけど半分」
応えるエルの腕の中で黒猫が鳴く。
その声につられるように耳を動かした白猫の首が持ち上がると、のびのびと体を伸ばしていた。音もなく黒猫が白猫に寄り添うと二匹は鼻頭を合わせて、互いの存在を確認しあっている。──その姿は、砂時計で隔たれ触れ合う事の出来ないあの双子の姿を連想させた。
「半分とは?」
「この猫は双子であって双子じゃないってこと」
要領を得ない回答だがエルの横顔に、先を問う言葉を飲み込んだ。
何処か遠くを思うような、ぼんやりとした表情。ゆっくりと伏せられた瞼の裏に過去の記憶を写しているんだろうか。双子が絡むとエルは時々こうなる。それを理解しているからカイは何も言わずじっと待った。
その間、猫はじゃれ合いもつれ合いソファーの下に落ちていく。ぶにゃ、と不細工な声を出したのは下敷きになった黒猫。バタバタと部屋の中を走り回る猫たちに口元を緩めたエルがゆっくりと動く。
「あの子たちは、眠っていたよ」
か細い声は掠れていたが、しっかり聞こえた。
「夢を見てるの」
「…あの猫が双子の夢とでも?」
「外に出たいだけ、なんだよ。強く強くその気持ちを抱いてるから、力が反応したんだと思う」
双子が居る時の間は、この空間な中で最も不安定だ。
長い間、そこに閉じ込められた双子とその空間の意識の波長がたまたま合ってしまった。そんな単純な話ではないだろうが、追及は止めた。
例え夢だとしても、ここが限界なのだ。
あの双子はこの空間から出ることが出来ない、それを改めて実感してしまったから。
そして
「目を覚ましたね」
二匹の猫は、消えていた。
「いっそのこと、引っ掻いてくれればよかったのに」
何であの子たちは、無防備に擦り寄ってきたんだろうね。
その言葉にカイは頷きもせず瞼を伏せた。
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