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オリジナル創作の小ネタ置き場
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本編後のエンコウ。
二人は少女を探し続ける








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 ぐにゃり。
 
 脳みそを揺さぶるようなこの感覚。
 とても気分がいいとは言えないそれを”懐かしい”と感じてしまう程度には、自分の感覚がどこかおかしくなっているんだとエンは思った。
 自分の肉体が強制的にどこかへ転移させられる。こんなこと、もう我が身には起きない事象だと思っていたが――だってそれを引き起こしていた存在はもう居ないし――どうにもそうじゃないらしい。
 歪みに捕まったエンとコウの体が徐々に闇へ呑みこまれていく。

 さて、一体どこに飛ばされるのか。

 状況のわりに、そんな悠長なことを考えていた。
 体を包み込むこの闇を恐ろしいと感じなかったせいなのか。むしろ、この闇、黒こそが、懐かしいのか。
 隣にいた弟を見ると瞳は闇の先を見据えている。その横顔が闇で完全に見えなくなる寸前、少しだけ緩んだ口元が見えた。
 意識さえも溶け込みそうな闇に飲み込まれ、エンは己の腰に差した剣の柄を握りしめた。




---泡沫_00 夢ノ国へ---




 先ず始めに彼らの嗅覚を刺激したのは猛烈な臭気であった。そして原因をすぐに理解する。
 目の前に転がる動物の死骸と、身体を丸めた異形――闇の先から開けた空間に吐き出された二人が地面と着地するやいなや複数の気配に取り囲まれていた。いや、囲まれたのではなく二人がそのど真ん中に落とされたといえばいいだろう。
「あー……道理でクセーわけだわ」
 状況を理解するとうんざりだと言わんばかりにコウがその顔を歪ませる。
 僅かばかりの月灯りが照らし出すのは――トロール。
 人というには不自然な大きさの耳を動かし鼻息荒く殺気立ったその様に相手側から攻撃対象にされたと息を吐く。距離を保ち睨み合いを続けていたが、一匹のトロールが踏み込んだ際にパキッと枯れ枝が割れる音が裂く。
 それを合図に耳触りな唸り声と共に一斉に襲い掛かってきたトロールたちとすぐさま戦闘態勢に入ったのはコウだった。
「かかってこいよ!」
 己の身の丈を優に超える大槍で前方の魔物を横に薙ぎ払う。強力な一撃に吹き飛ばされたトロールが潰れた声で転がっていくのを鼻で笑って槍を構え直す。
「コウ、任せた」
「おう!」
 数こそいれど大した脅威ではないと判断したエンは、その場をコウに任せて周囲の状況確認のため頭上へ跳んだ。
 人狼の身体能力は高い。特に脚力は秀でたものである。
 エンは一度の跳躍で数メートル上の枝に掴まり、枝から枝へと渡るようにその巨大な樹木の頂上付近まで登っていく。
「だらぁっっ!」
 ずしん。ばき。ぎゃああああ。
 コウの槍とその餌食となった魔物の断末魔を下方に聞きながら、高く伸びた樹木の枝の上でぐるりと辺りを見渡した。
 といってもこの周辺は鬱蒼とした木々で囲まれていて、遥か彼方に灯火に揺らめき照らし出される大きな建物が見える程度。人工的な建物や風に乗ってくる生き物の匂いに知性を持った生き物がいるだろうと目星を付ける。この場所からざっと見積もった距離を頭に入れて、空を仰ぎ見れば宝石を散りばめたように美しい夜空が広がっていた。頭上に巨大な月が輝いていれば灯りのないこの森でも随分と明るいものだ。葉にかかった雨粒も月の光を反射しているのが美しいと感じながら、濡れた空気に頬を撫でられる。
 遠方に見える城を一瞥しエンが下を覗き込むとちょうどコウの方も魔物を討伐したところで槍を地面に突き立て首を回していた。
 登った時と同様に難なく降りてきたエンを手を挙げて迎える。
「おーどうだった」
「ここは森のど真ん中。ずっと南西の方に行くとぐるっと髙い壁に囲まれた大きな城があった。生活している様子もあるし、情報集めるならそこに向かった方がいいと思う」
「ふーん。どーせ落とすなら人里に落としてくれりゃいいのにな。いきなりバケモノのお出迎えたぁやってらんねーよ」
 移動のさせ方ならまだ”あいつら”の方がマシだったわとぼやくコウの槍に施された装飾が静かに光沢を放つ。その鮮やかな輝きを見ていたら、無意識に自身の腰へ手が伸びた。
 存在を確かめるようにしっかりと握った剣の柄にも、同じように施された装飾がある。異なった飾り石を付けた装飾が。
「……石が光ってる。魔力に反応してるね」
「おう。色々とわかんねーことばっかだし、さっさと移動しようぜ」
「夜の森を動くのは危険じゃないか?」
「こんな所に長居したってしょうがねーだろ。じめじめして気持ちわりーわ」
 派手に雨降ってたんだなと鼻を鳴らして歩き出したコウの後ろにエンが続く。
 どんよりと湿った空気は森の奥ということもあって重たかった。木々の葉は露で光り、濡れた地面から生じた泥濘に足が取られる。前を歩くコウの燃え盛る炎のような髪も少し萎れているように見えて笑ったエンだったが自身の髪も湿気りから膨らみ気味だ。
「とりあえず人里行こうや。そこで適当に話通じる奴捕まえてここが何処か聞き出そうぜ」
「……話どころか言葉が通じることを祈るけどね」
 周囲を見渡しながら小さく呟いた兄の言葉をコウは聞き逃さず振り返った。
「あ?別の大陸ってことか?」
「それ以前に、ここが<世>じゃないかもってことだよ」
「んなこたねー……とは言い切れねぇか」
「今までのことを思えば、ね。でも強制的にここに呼ばれたってことは何か意味がある筈なんだ」
 ざわざわと風が二人の間を抜けていく。
「もしかしたら――彼女たちに繋がる何かがあるかもしれない」
 エンが静かに、そして強い想いを宿した言葉を口にする。
 それにコウも頷くと双子の人狼の影は夜の森の中へ消えていった。





---泡沫01へ---

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