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オリジナル創作の小ネタ置き場
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 陽はもうすぐ暮れようとしていた。
 確か街を出たのは昼前のはずだったけど…エンは茜色の空を見上げそれだけの時間荷馬車に揺られていたのかと意識すれば若干痛む腰を押さえる。
 鍛練を積んでいても、流石に慣れない方法での長時間の移動は辛い。これからは遠征授業もあるのでああいった移動法の対策も取っておかなければならないだろう。そんなことをぼんやり思いながら歩を進めていると木々の向こう側に目的地が見えてきた。

 四年生は今日は校舎へ行かない。明日に四年全ての科を講堂に集め式をするのだ。
 今日エンたちが向かうのは今後生活する学生寮前。
 魔学に通う全生徒は寮住まいで、寮には全科の生徒が集う。ある程度振り落とされたとはいえ騎士科だけでも百人程度は居るし、ぞろぞろと人の塊が出来ていく。
 その塊から少し外れたところで、エンは見知った顔を見つけた。腕を組み木の幹に体を預ける生徒は、相変わらず無関心そうに人の塊を見ている。
「やぁ、カリス」
 呼ばれた少年は片手を上げて挨拶をするエンを一瞥。そしてワンテンポ遅れて口を開いた。
「ああ」
 彼の名はカリス・ラリアート。
 魔学の中でも一番難易度の高く人数も少ない魔法騎士科に在籍する少年で、双子の妹も同じく魔法騎士科である。色々と縁合って今では友達と呼べる存在だ。
 カリスの隣に落ち着くと、ポツポツと適当な世間話を振るがまぁあまり会話が盛り上がらないのもいつものこと。
 エンはあまりガツガツとしていない男だ。よくも悪くもマイペースなので、ずかずかと相手の領域に踏み込んで派手に地雷を踏むことも棘を刺すこともない。(どちらかというとそれはコウが毎回やらかすことで、相手とトラブルを起こすことも多い)
 カリスの性格上、二人はお互いにちょうどいい距離感を保つ関係性だった。

 そうして時間を潰していたら、数人の上級生が寮の前にやってきて場を静めると簡単な口上の後指示を出し始める。
「自分の寮棟は事前に知らされてるだろう。この寮から南に向かって【一号棟】【二号棟】【三号棟】【四号棟】だ。【一号棟】【二号棟】は魔法科、魔法騎士科。【三号棟】【四号棟】は騎士科となっている。そちらに向かえばその寮の寮長がいるから詳しい説明はそちらで受けるように」
 屋外でもよく通る声で、後方にいたエンでも十分に聞き取れる内容だった。「じゃあまた明日ね」とその場でカリスと別れ生徒たちが移動し始める波に乗ってエンは自分の寮棟である四号棟へ向かう。
「うわ、四号棟って校舎から一番遠いじゃねーか。ダルいな」
「体力あり余ってる脳筋科とか思われてんじゃん?」
「あははは、通うのも鍛練になるね」
 同じ造りの建物を三つ通り過ぎる間に同じ騎士科の仲間と言葉を交わしつつ、辿り着いた四号棟の前で待機すれば寮長からの挨拶を受けまた説明が始まる。四年生は一部屋八人で学年が上がる都度変更されていき成績が優秀な者は個室が与えられる。個室が欲しければ結果を出せとのこと。
 部屋割りの説明後に門限や食堂・風呂場の位置、中庭にある鍛練場について等々ざっくりと寮内の説明を寮長から受けて、生徒たちは解散となる。
 自室に向かう途中に見た、窓の外は真っ暗だった。












 一方こちらは女子寮一号棟――
「トキノ姉妹、なんか呼び出し来てるよ」
「「へ?」」
 初めての寮食を満喫し部屋でリラックスしていたところを同室の生徒から声を掛けられて、二人の少女が声をハモらせる。
「え、やだ私初日からご飯食べ過ぎた?」
「そんなことで呼び出されないでしょう」
「だよねぇー」 
 黒髪の少女がおどけながら立ち上がるともう一人の少女が続く。
 薄手のカーディガンを羽織る双子は寮のロビーに居るってさと伝える生徒にお礼を言って部屋を出た。それこそ友達からの呼び出しに応じるような軽い気持ちで。

 トキノ姉妹は、魔法科四年生に上がった双子で今年からこの校舎で学び出すことになっている。
 魔法を扱える者はそれぞれ【火】【水】【風】【土】【光】【闇】六つの基本属性の何れかを所持している。一つであったり複数であったり。
 トキノ姉妹はこの全ての属性を扱える素質があり、更に魔法が扱える者からすれば喉から手が出るほど欲しがられる特殊属性に分類される珍しい属性も所有し恵まれた才を持っていた。
 だがこの特殊属性がとにかく厄介な存在であった。
 魔力操作技術が未熟な少女たちには荷が重すぎるもので、我が物にしなくてはならない魔法に振り回されているのがトキノ姉妹の実情。姉のシロと妹のクロが魔学に入学した理由はこの力を使いこなすことである。

 まだ慣れない建物内を二人で歩き寮のロビーまでやってきたところで、双子を見付けた一人の女性が手を振っている。見知らぬ女性に双子は立ち止まった。
 にっこりと笑みを絶やさない女性は緩やかなウェーブを描いた腰まで届く金髪で、丈の長いワンピースというラフな姿に黒いストールを肩から羽織っている。上級生だろうか。双子に用がある人物は彼女で間違いなさそうだ。
 何の用だろうと不思議そうに近寄ってきた双子に彼女は柔らかな声で挨拶をした。
「はじめまして。来たばかりなのに突然ごめんね、キミ達に伝えたいことがあって」
「はじめまして。えっと、何でしょうか?」
「明日、講堂での式が終わったら四年生は自由時間が与えられるの。その時に、教務課に来てもらえるかな」
 突然伝えられた内容に心当たりの無い二人は目を瞬せる。
「…私たち、何かしちゃいました?」
 クロが恐る恐る訊ねると、目の前の女性は小さく笑い「違うよ」と右手でクロの頭を撫でた。この歳にもなって頭を撫でられるのはちょっと恥ずかしいが、なんだか嫌な気持ちではない。彼女の優しい手つきに心地よさを感じる。
 クロの様子を見ていたシロが先を促すように彼女の顔を見ると、一度ゆっくりと閉じられた瞼。そして静かに開くと長い睫毛に縁取られた青い瞳が細められた。

「キミたちの特殊属性について、色々と知っておかなきゃだからね」

 特殊属性――その単語が出た瞬間、双子を纏う空気が変わった。
 魔力を持つ者同士間近に感じた独特のソレに、彼女の口角が新しい玩具を与えられた子供のように持ち上がった。同時に双子も違和感を覚える。
「ん?なんだろ?」
「今、なんか……?」
 何かを無理矢理、引き出された、ような。
 言葉に出来ない不思議な感覚にシロとクロは首を傾げる。
「用件は伝えたよ。じゃあ失礼するね、よい夢を」
「え、あ、はい!ありがとうございました!」
「おやすみなさい!」
 未だ納得いっていない様子の双子ではあったが、ひらりと踵を返した女性に礼を言うことは出来た。
 長い髪を揺らしてロビーから外へ出ていった女性は直ぐに見えなくなり、双子は夢心地に似た感覚に暫しその場に立ち尽くす。

 そして、見回りをしていた寮長に声を掛けられて、二人は自室へと急いで戻るのであった。

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