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魔学パロの新学期始まったばかりの頃

 ──次の授業は、魔法薬学か。
 4年生になって初めて選択出来る教科は未知の世界で、だけども勝る好奇心にまだ真新しい魔導書に少女は視線を落とした。重厚なそれの表紙を指が滑る。
「(この知識、身に付けられるかな)」
 シロ・トキノ──双子の姉で特殊属性持ち。基礎魔学力が絶望的で魔法センスの無さに定評があり、落ちこぼれ街道を全力で転がっている。
 これが周囲からの彼女たちに対する評価だった。
 散々ではあるが、既に魔学に3年間費やしているにも関わらず中々向上しない魔力操作技術が全てを物語る。今までの試験をパス出来たこと自体不思議なくらいであった。一部では、特殊属性持ちだから優遇されてるのではないかと囁かれ、時には子供のような(子供なのだが)嫌がらせもあったくらいに。それでも、父親との約束を果たすため、己の属性を操るため。この学校を卒業することを心に固く誓っている。

 4年に進学すると校舎も変わり心機一転がんばるぞと胸を張ったところで、ちらりと自らの隣を見たシロは溜めたやる気がふにゃふにゃと抜けていくような心境になった。
「(…クロ、遅いな)」
 いつも隣に居るはずの存在。教室に備え付けられた時計はあともう少しで始業時間を指そうとしている。なのに妹の姿はまだ見えない。移動の前に「忘れ物したから先行ってて!」と残して消えた背中を思いつつ、まさか迷子じゃ…とシロは表情を曇らせた。


 とにかくこの学校は広大だ。
 この校舎に来てまだ日も浅いし、校内も入り組んでいるし。
 そして校外に至っては学校の性質上人里離れた森の中に設けられているとはいえ、この敷地面積は村の1つや2つは余裕である。況してや日頃の訓練もあり、上級生による魔法実験で森では遠目に爆発が起きるのも日常茶飯事だそうだ。森林火災とか無いのかな、と純粋に思ったがそこら辺は上手い具合にバランスを保っているらしい。
 今までは魔法使い候補のみが集う場所で学んでいたが、今年からは並列して騎士科と魔法騎士科の生徒までもが1つの校舎に集う。その人数がまとまるのだ、規模は想像出来るであろう。
 白の中で生活していたシロにとって、ひょいと廊下や外に目を向ければ黒がある光景は中々新鮮でもあったが。


 初回の授業から遅刻となってはクロが可哀想、どうしようかと落ち着きなく周囲を見渡していたら──
「んもー!あの騎士さいっあく!」
 扉を開けるや否や怒鳴り散らして入って来た者に、シロはびくりとその肩を揺らした。驚いてその方を見れば顔を真っ赤にしたクロが歯を食いしばりながら、ざわつく教室内を突っ切るように真っ直ぐ歩いてきていた。
 突然の出来事に目を瞬かせる姉の隣に荒々しく腰を降ろしたクロは手に持っていた魔導書を机に叩き付ける。気のせいじゃないと思うが、配布されたばかりのこの魔導書になんだか赤黒い染みがついているような。
「ク、クロ…?」
 小声で伺うが、まだ怒りが収まる様子のクロは険しい顔をしたまま動かない。

 そして妹から打ち明けられた騎士とのアクシデントに、シロの魔導書もまた机に叩き付けられるのはこの授業が終わってからの話。




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落ちこぼれ姉妹。

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